世界一になるつもりで徹底して勉強する
一昨年逝去された作家城山三郎さんが、商社マンの日常を描いた『毎日が日曜日』という小説がある。ビジネスマンにとって幸福な人生とは何かを追求したこの作品に、主人公が社訓を語る場面が登場する。「ワタシハ、アリニナレル。ワタシハ、トンボニナレル。シカモ、ワタシハ、人間デアル」。
アリのように黙々と勤勉に働けるか。トンボのように複眼でものを見ることができるか。何より血の通った温かい人間の心を持つことができるか。
これが実話に基づいていることを私は城山さんと対談をさせていただいたときに知った。伊藤忠商事の役員が新卒の採用試験でこの質問をしていたのだ。アリ、トンボ、人間。この3つのステップには優れたリーダーへと成長していくプロセスが見事に示されている。私にとっては大先輩がそれを看破していたことに意を強くしたものだった。
もちろん、すぐに優れたリーダーになれるわけではない。入社して30代前半までの最初の10年間はアリのように泥まみれになって働く。若い時期に人生を切り開くために必要な仕事の基本を体に覚えさせる。力を出し切るまで働くという意味を込めて、私は“泥のように働け”という。