一方、『論語』が説く「仁・義・礼・智・信」の五常や「温・良・恭・倹・譲・寛・信・敏・恵」の9つの徳目を心がければ、自らの驕りを抑え、謙虚であり続けることができる。この自律自省の精神を実践していくと長期的には必ず成果に結びつく。それは人間の能力を超えたサムシング・グレートの存在を知ることで初めて到達できる世界にほかならない。このとき、温かい血の通った経営ができるようになる。

何を読むべきか。人それぞれで「これを読みたい」と思う本を読むのが一番だ。例えば、私がよく推薦書に挙げる『木のいのち木のこころ』(新潮文庫)は今は亡き法隆寺の宮大工西岡常一さんと弟子の言葉を聞き書きしたものだ。木の癖を読みとって活かす使い方を語りながら人の育て方も示す。

1冊の本を読んで心に刻む言葉が1つ、2つあれば十分だ。それが頭と心の両方に栄養を与える。ただ、同じ本に接しても自立と成長を志向する意識がない限り、情報は流れていくだけだ。そこでアリからトンボになれるかが分かれる。むろん誰もができるわけではなく、おそらく上位20%ほどの層がトンボへ、人間へと成長し、リーダーとして組織を率いていくのだろう。

今、あなたはどこに位置しているか。誰もが持つ「動物の血」は隣同士の矮小な競争へと駆り立てようとする。しかし、本当に大切なのは、いつか訪れる死の瞬間に、自分は人の役に立つ仕事ができたと思い返せる偽りのない生き方だ。もし、どこかに強欲さがあれば、謙虚な気持ちで原点に戻り、勉強を重ねることだ。努力する人間を社会は決して放っておかない。どこかで誰かが見ていて光を当てようとする。それがサムシング・グレートであり、その存在を信じられる限り、あなたの努力は必ず実を結ぶに間違いない。

(勝見 明=構成 市来朋久=撮影)