外にいるほとんどの人がマスクをしている
私はマスクをしたことがない。
ただでさえ息苦しい世の中なのに、あんなものをすれば窒息しそうになる。
晴れた朝、冷気を含んだ風を胸いっぱいに吸い込んで、「春は名のみの~」と早春賦を口ずさみながら歩く。
こんな素敵な季節にマスクなど野暮である。
だが、街を行く人、電車に乗っている人のほとんどはマスクで顔を覆っている。中には、黒いマスクに黒メガネ、野球帽を被り、昔のコソ泥のような格好の人もいる。
マスクなしの高齢者である私が、軽い咳をするだけで、目だけ出した乗客たちの視線が身体に突き刺さる。
咳をしただけで、車掌に通報され、電車から降ろされた人もいたという。ぜんそくの持病を持っている人など、電車はもちろん、タクシーやバスに乗るのにも神経を使わなくてはいけない。
マスクでは新型コロナウイルスの感染を100%予防できないと、WHO(世界保健機関)だっていっているではないか。そんなこと常識以前だと私がいうと、周りの人間は顔をしかめ、マスクの紐をしっかり絞めて、離れていく。