“せめて五輪は開催しなければ”という焦り

私が推測するに、安倍は焦っているのだ。在任期間ばかりが長くなったが、自分のレガシーを何一つ残せず、悲願だった憲法改正も日暮れて道遠しである。

レームダック状態になっている安倍に残されているのは、中国・習近平主席の訪日と東京オリンピック・パラリンピックだけだった。だが、中国で発生した新型コロナウイルス感染があっという間に世界中に広がり、全人代さえ延期した習近平に、訪日する余裕などなかった。

残るは東京五輪だけである。これだけは何が何でも開催する。そのためには早急に国内の感染を抑え込まなければいけない。

その焦りが安倍の判断を大きく狂わせていると思う。

朝日新聞(3月7日付朝刊)は社説で、「新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正案が成立すれば、人権の制限を伴う措置が可能となる緊急事態宣言を首相ができるようになる。しかし、合理的な根拠と透明性に著しく欠ける意思決定を重ねる首相に、その判断を委ねるのは危うい」と書いた。

このような人間に、8年以上もの長きにわたって政権を委ねてきたのは、この国の民の記憶力の脆弱さのためだったと、私は考える。

思い出してみるがいい。阪神淡路大震災も東日本大震災さえも、被災地以外の人々の中で風化しつつあるのはなぜか。

あれだけの原発事故があったのに、政府が主導する再稼働に反対する声が大きくならないのはなぜか。

発言が食い違うと、人事院が「言い間違えた」と撤回

森友学園・加計学園問題、財務省による文書改ざん、桜を見る会の私物化、カジノ誘致に絡む収賄容疑で現職議員が逮捕され、安倍首相の口利きで1億5000万円も選挙資金を注ぎ込んだ参院議員の公職選挙法違反疑惑、側近・和泉洋人首相補佐官の「老いらく不倫」など、安倍首相とその周囲の人間たちの不祥事を挙げればきりがない。

極めつけは、「安倍の番犬」といわれる黒川弘務東京高検検事長を検事総長に据えるために、検察庁法を無視して定年延長させたことである。かつて「検察には国家公務員法は適用されない」と人事院は答弁していたのに、独断で覆したのである。

三権分立をなし崩しにするこの暴挙に、批判が巻き起こった。だが、呆れたことに、安倍首相は衆院本会議で、この問題について、「今般、国家公務員法の規定が適用されると解釈することとした」と、勝手に法解釈を変更したと明言したのである。

その答弁の前に、人事院の担当局長は「同じ解釈が続いている」と答えていたのに、安倍の答弁後に、「つい言い間違えた」と前言を撤回してしまったのだ。

こんなことばかりやっている政権を信頼しろというほうが無理だ。

さらに、安倍の名を使って獣医学部を新設した加計学園が、韓国からの受験生たちの面接試験の点数を全員0点にして、不合格にしていた、国籍差別が行われていたと、週刊文春(3/12号)が報じた。

昨年11月16日に行われた獣医学部獣医学科の推薦入試のことだと、加計学園幹部職員が告発している。文春は合否結果の書いてある内部文書も入手しているそうだ。