私は感染者数が200人程度と発表されていた時点で、その1000倍、20万人は感染者がいるだろうと推測して自分の放送番組で警告を発していた。武漢市の人口は約1100万人で東京に匹敵する。私は1995年の都知事選に出馬して、選挙期間中、バイクで都内5万9000キロを走り回って立会演説会を開いた。そのときの肌感覚でいえば、100万人にもタッチしていないと思う。日常生活であれば飛沫感染や接触感染を引き起こすような、他者との濃厚な接触機会はもっと少ない。
武漢から来た中国人、あるいは武漢を訪れた外国人が申し合わせたように発症している状況は、私の経験からすれば、魚介市場や限られたスーパースプレッダー(感染力が著しく強い患者)がウイルスをまき散らしたというよりも、武漢にすでに大変な数の患者およびキャリア(感染しているが発症していない人)が19年12月初旬の時点で存在していた、と考えるほうが自然だ。中国政府が発表した数字を鵜呑みにはできないし、政府が実態を把握し切れていない可能性ももちろんある。
ネット上には、武漢の病院に治療を求める大勢の市民が押しかけて大騒ぎになっている様子や道端に遺体らしきものが転がっている映像などが次々にアップされるが、当局の情報統制なのだろう、数分もするとすぐ消されてしまう。
そもそも新型コロナウイルスによる新型肺炎は19年12月上旬の段階で確認されていた。武漢の複数の医師が原因不明の肺炎に気づいてSNS上でいち早く警告を発していたのだ。ところが、公安当局から「デマを流した」と摘発されて、訓戒処分を受けた。そのうちの1人、30代の李文亮医師は後に新型肺炎を自ら発症して感染が確認されたが、入院後に死亡している。
海外で日本人の入国制限が進む
新型コロナウイルスの実態はいまだ解明されていない、感染状況から見えてきたこともある。1つには感染力の強さである。
SARSのときは発生から収束までの8カ月間で中国本土の感染者数は約5300人。今回の新型コロナウイルスは発生から2カ月を過ぎて感染者は7万人を超えた。アメリカのCDC(疾病対策センター)は新型コロナウイルスの感染力はSARSよりも強いという見解を示している。
厄介なのはキャリアから感染する事例が確認されて、潜伏期間中にも感染することがわかってきたことだ。SARSやエボラ出血熱などは発症した患者からの感染が圧倒的に多いので、隔離など対処のしようもある。しかし感染していながら症状が出ないキャリアの場合、発熱検査などではチェックできないし、本人の自覚がないまま感染を広げてしまう恐れがある。