2月の卒業式が突然キャンセルされた

私が教授を務めるオーストラリアのボンド大学も、2月の卒業式が突然キャンセルされた。在校生の15%くらいが中国人となっている現状で中国本土から両親や一族郎党が入国できなくなったからだ。何らかの手段を講じて来てもらっても、ほかの1500人の来賓が出席を取りやめるだろうし、中止以外の選択肢がなくなってしまったのだ。大学近くのショッピングモールやレストランなどは人との接触を避けて閑散としていた。中国からの移民の多い国では、日本にいては想像できないような過剰反応が起きているのだ。

人やモノの移動が大幅に制限されるのだから、経済への影響は計り知れない。発生源とされる武漢市は人口約1100万人のメガシティであり、中国有数の工業都市だ。部品メーカーも数多く、生産ストップが長引けば世界経済に多大な影響を及ぼす。新型コロナウイルスの問題が深刻化して中国経済が失速すれば、世界的な景気後退につながる。社会不安が中国の政治的安定を揺るがす可能性もあるだろう。すでに欧米メディアの中には“皇帝”習近平の野望を挫くかもしれない、というトーンの論評も目立つ。

ミクロネシアやツバルなど日本人を入国制限の対象にしている国も出てきているが、これが加速する恐れもある。近隣国の日本は感染者数が多いし、ダイヤモンド・プリンセスが“浮かぶ武漢”と揶揄されるようになり、これが日本政府のやり方だ、と非難する論調も目立つ。「マスクをつけた東洋人」が中国人なのか日本人なのかは、ほとんど区別はつかない。ヨーロッパなどではアジア人差別が急速に広がっているのだ。

東京オリンピック・パラリンピックにも影響は必至。SARSなど過去の感染症ウイルスの収束期間は7~9カ月で、今回の新型コロナウイルスが20年7月の開催前に収まる可能性は低い。中国人が大挙してやってくる日本、それも集中する東京に選手団や応援団を積極的に送り込む国がどれだけあるだろうか。開催中止に追い込まれる可能性は決して低くないと見る。

(構成=小川 剛 写真=AFP/時事)
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