そうした香港人の言動に反感を覚えて、「香港人は大陸の中国人を下に見ている」と感じる中国人が増えているのだ。「嫌香港」という中国人の感情の裏側には、「自分たちはデモをしたらすぐに捕まるのに」というジェラシーもある。それが「香港の奴らはなぜあんなに偉そうなことを言っているのか」「そんなに中国が嫌なら出て行けばいいじゃないか」といった声に転化して、ネット上に溢れているのだ。
アメリカのNBA(全米プロバスケットボール協会)のあるチームのGMが「自由のために戦おう」「香港とともに立ち上がろう」と香港デモの支持をツイッターで投稿したところ、中国総領事館が抗議声明を出したり、中国国営中央テレビが当該チームの試合を放映中止にする騒ぎになった。ネットも盛り上がって「香港で違法行為をしている連中に味方するNBAの試合なんかもう見ない」といった反発の声が中国国内で高まった。
「嫌香港」の広がりは予想もしていなかった
本土の中国人は息を潜めて香港情勢を見守るものと思われていたから、「嫌香港」の広がりは予想もしていなかった動きである。しかし中国の動向を見定めるには、こうした動きを見逃さないことが重要になってくる。
11月末に行われた香港の区議会選挙(地方議会選挙に等しい)で、民主派が議席の約85%を獲得して圧勝した。投票率71%、投票者数約294万人はいずれも香港返還後、過去最高を記録した。民主派は選挙結果を「抗議運動の住民投票」と位置付けたが、そんなことで中国政府は折れない。逆に中国本土の「嫌香港」がさらに激化することも考えられる。
問題が長引けば香港の魅力が失われて、海外の企業や優秀な人材が逃げ出したり、観光客が来なくなる。結果、中国のダメージになるという指摘もある。しかし習近平は歯牙にも掛けない。どのみち香港に未来はない。栄えるのは深圳や上海なのだから、香港を脱出した企業や人材が本土に来てくれれば大歓迎というわけだ。
仏教徒の多いチベットも締め付けている間におとなしくなったし、指導者ダライ・ラマはインドで遠吠えしているだけだ。イスラム教徒の多い新疆も、ウイグル族の教化をしていけば、やがて漢民族には逆らわなくなる。世界がなんと言おうが時間をかけて“一国”に仕上げてみせる。少なくとも皇帝習近平は民主化運動に与することも、妥協することも、同情することもないだろう。
彼の頭の中での香港は、火山に飲み込まれて一夜にして歴史から消え去ったポンペイのような姿に見えているのではないだろうか。