当初はポスト習近平を狙う第5世代、第6世代のライバルもいた。習近平体制は決して強い政権ではなかったのだ。しかし虎(大物)からハエ(地方の役人)まで叩く「腐敗撲滅運動」という名の権力闘争を仕掛けて、ライバルや足を引っ張る者を徹底的に追い落としてきた。結果、ポスト習近平のめぼしい候補は、今では誰一人いなくなってしまった。

習近平が毛沢東や鄧小平と同等の地位まで「神格化」された

17年から2期目がスタート。任期の折り返しで、これまでならチャイナセブン(党内序列の上位7人。中央政治局常務委員)に次世代のリーダー候補が入ってくるのが通例。しかし、このとき次世代リーダー候補は入らなかった。むしろ権力集中、独裁体制の強化が進んで、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」という文言が行動指針として党規約に明記された。政治思想に個人の名前を冠されるのは毛沢東、鄧小平に次いで3人目のことだ。習近平が毛沢東や鄧小平と同等の地位まで「神格化」されたことを意味する。

さらに18年3月の全人代では国家主席の任期を「2期10年」までとする規制を撤廃する憲法改正案が採択された。これで習近平は、2期目が終わる23年以降も国家主席として居座り続けて、超長期政権を築く可能性が出てきた。文化大革命以降、過度な権力集中を防いできた中国の集団指導体制は終わりを告げて、習近平は中国伝統の「皇帝」、しかも引きずり下ろされることのない「終身皇帝」になったのである。

“皇帝習近平”は何を目指すのか。17年の共産党大会の演説で、習近平は21世紀半ば(2049年が中国の建国100周年に当たる)までに「社会主義現代化強国」を築くという新たな目標を打ち出している。社会主義現代化強国とは、民主主義や自由主義などの西洋の価値観に毒されることなく、中国本来の社会主義思想をもって、それを時代に適合した形で発展させ(前述の「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」となり)、強国化していく、ということだろう。

すでに世界第2の経済大国だが、経済力も国防力も高めて強国化する。習近平は今世紀半ばまでに世界一流の軍隊を建設することも目標に掲げている。総合的な国力でアメリカに対抗できる覇権国となって世界をリードするという構想だ。