進む入植、続く裁判闘争

旧市街の南側に広がる東エルサレム・シルワン地区。イスラム教の聖地アルアクサ・モスクから1キロも離れていないシルワン地区に、急峻な丘に家々がへばりつくように建つ一角がある。ここでも入植推進団体が00年代から「48年のイスラエル建国以前からユダヤ人が住んでいた」などとして、パレスチナ人の住民数百人に立ち退きを迫っていた。少数の世帯が売却に応じ、地元住民によると、その一角だけで入植者が30家族、100人以上住んでいるという。実際、その場所を訪れたところ、髪が見えないようにスカーフを頭に巻いた厳格なユダヤ教徒の女性が、防弾ベストを着用した警備員に守られながら通りを歩いていた。近年は入植推進団体と住民の間で土地の所有権をめぐって裁判が続いている。

シルワンには「ダビデの町」という名の遺跡があり、ユダヤ人にとってエルサレム発祥の地とされる。イスラエル政府が国立公園に指定し、多くの観光客を集める一方、周辺では90年代からユダヤ人の入植が進められてきた。

旧市街の北側に位置する東エルサレム・シェイクジャラ地区でも同様にユダヤ人の入植が進み、裁判闘争が続いている。パレスチナ人が住む家々の間に、イスラエル国旗を掲げた超正統派のユダヤ人らが住む家が点々と存在しているのだ。

「仲介」を推進している団体の創設者を訪ねた

東エルサレムでパレスチナ人の住宅を買い取り、ユダヤ人に売る「仲介」を推進している団体が、2006年に発足した「Israel Land Fund」(イスラエル土地基金)だ。創設者で現在はエルサレム市議も務めるアリエ・キング氏をエルサレム市役所内の事務所に訪ねた。

自身も東エルサレムのオリーブ山に住むキング氏は、白紙にエルサレムの地図と、タマネギの絵を描くと、こう言った。「いいですか。タマネギにはいくつもの皮(層)がある。外側は苦く、内側は甘い。タマネギを加熱すると甘くなるけれど、(生のまま)包丁で切ると目から涙が出る。私たちは旧市街のユダヤ教聖地『神殿の丘』では礼拝できず、エルサレムを分断しようとする動きもあった。私たちがやっていることは、タマネギの皮(層)を重ねていくように、旧市街を含む東エルサレムの各地にユダヤ人を増やしていくことです」。

難解な例えだが、ユダヤ人が涙を流さなくてもすむように、時間をかけて「料理」し、じっくりと形を変えていくという意味だと、私は解釈した。