パレスチナ自治政府はユダヤ人への不動産売却を禁止
パレスチナ自治政府はパレスチナ人が不動産をユダヤ人に売ることを禁じている。いわばタブーであり、土地や家をユダヤ人に売ったと公言するパレスチナ人は皆無に近い。だが、旧市街にあるキリスト教徒の聖地・聖墳墓教会の鍵の管理人という要職にあるイスラム教徒のアディーブ・ジュデさん(54)は、ユダヤ人に渡ることを全く想定せずに、家を売ってしまった。
その家は旧市街にあるイスラム教の聖地アルアクサ・モスクから徒歩2分ほどの「一等地」にある。築数百年の石造りの3階建て。ジュデさんらパレスチナ人約70人で所有していた。1階に診療所が入っていたが、2、3階は空いており、誰も住んでいなかった。
ジュデさんによると、14年ごろから社会的な地位があるパレスチナ人との間で売却話を進めていた。16年に自治政府と関係が深いとされるパレスチナ人ビジネスマンから「家を売ってほしい」と頼まれた。自治政府の複数の高官から「信用できる人物」というお墨付きを得て、250万ドル(約2億7500万円)で売却したという。
正体不明の会社に所有権が移っていた
18年10月4日未明、ジュデさんの携帯電話にその家の近所の人から緊急の連絡があった。多くのユダヤ人入植者が家の中に入って行ったという。家を売ったビジネスマンに慌てて電話をかけて事情を聴いても、何も答えようとしなかった。ジュデさんが土地の所有者の記録を調べると、16年12月にビジネスマンの会社名義から「DAHO HOLDINGLIMITED」という正体不明の会社に所有権が移転していたことがわかった。
この家はその後、入植推進団体アテレト・コハニムに買い取られた可能性が高いとみられている。ジュデさんは弁護士に相談したが、「売ってしまったものはどうしようもない」との回答だった。パレスチナ自治政府の行政権は旧市街を含む東エルサレムには届かない。自治政府側も「何もわからない」と言うだけで力になってくれなかったという。
ジュデさんは「ビジネスマンが入植者に売った疑いが強い」とみている。「入植者は我々の誰も家の中に入れようとしない。大金を得たが、先祖代々大切にしてきた家が『汚い手』に渡ってしまい、強いショックを受けている。心がかきむしられる思いだ」。カタールの衛星テレビ局アルジャジーラの報道によると、この家が建つ通りに並ぶパレスチナ人の家10軒のうち8軒が過去数年の間にユダヤ人入植者の手に渡ったとされる。