年間4000万人はイギリスやドイツを超える。6000万人ならイタリアや中国と肩を並べる。官僚や政治家のマネーロンダリング(資金洗浄)で栄えた中国のマカオは別として、これらの国々はカジノ目当ての外国人観光客を集めているわけではない。訪日外国人客数が年間3000万人を超える時代にはカジノなどまったく必要ないのだ。

今どき、カジノを新設しているのは東欧やバルト三国、アメリカの先住民族対策地など観光素材の乏しいところばかりで、世界的に見るとギャンブルとしてのカジノ産業は斜陽化している。

カジノがドミノ倒しのように倒産

カジノ・リゾートとして知られる米ニュージャージー州のアトランティックシティでは14年以降、トランプ大統領が経営していた「トランプ・プラザ・ホテル・アンド・カジノ」をはじめ、カジノがドミノ倒しのように倒産した。

対照的に堅調なのがラスベガスで、こちらはもはや「売春とギャンブルの街」ではない。90年代にテーマパーク型のホテルとコンベンション施設を整備、各種スポーツイベントやシルク・ドゥ・ソレイユ、人気歌手のショーを誘致するなどして、展示会や見本市、国際会議、そしてファミリーデスティネーション(家族旅行の目的地)、リタイアメントタウンに完全に路線変更した。街全体がテーマパークのような「非日常」を提供しつつ、エンターテインメントやショッピングが楽しめる健全な街に生まれ変わって、国内はもとより世界中から観光客を呼び込んでいる。

そのラスベガスからカジノ売り上げ世界一の座を奪ったのがマカオだが、マカオでも14年以降、カジノ収益が大幅に落ち込んでいる。原因は中国のバブル崩壊と政府の反腐敗キャンペーン。マカオのカジノは不正なマネーロンダリングの温床になっていたが、取り締まりが強化されたために高級官僚や企業幹部など富裕層の客足が遠のいたのだ。マカオのカジノ依存経済も転換点を迎えて、ラスベガスのようなIR化が進んでいる。

このように世界的にはカジノビジネスは退潮傾向にあって、カジノを売り物にした日本のIRは時代遅れ、周回遅れの産物になる可能性が相当に高いと私は見ている。

横浜市では、地元の賛否は割れている。横浜商工会議所はIR誘致に賛成の立場を表明しているが、山下埠頭を拠点とする港湾事業者らが組織する「横浜港運協会」はカジノ導入に大反対。横浜エフエム放送の社長も務め、「ハマのドン」と言われている藤木企業の藤木幸夫会長は「山下埠頭は聖地。バクチ場にはしない。ギャンブル依存症への懸念もある。命を張ってでも立ち退きには応じない」と啖呵を切っている。