観光収入1位になったドバイの方策とは

富裕層向けのもう1つの課題は、超富裕層向けのサービスがほとんどないことです。超富裕層はゆっくりとプライベートな時間が過ごせる滞在型施設と移動手段を求めているのに、日本では、東京ですらそうしたサービスは不十分です。超富裕層のパイは小さいのではないかと思う人もいるかもしれません。しかし、イギリスのコンサルティング企業の調査によれば、純金融資産5000万ドル(約54億円)以上の超富裕層は世界に13万人弱存在しており、ビジネスは十分に成り立ちます。

これらの課題を解決するには、どうすればいいでしょうか。まず大切なことは、「よいものをより安く」という価値観がこれからは「悪」になる場合があると気づくことです。次に、方法論を知ること。方法論はいくつかありますが、1つはマーケティングをして、どんな旅行者を対象とするのか、ターゲットを明確にすることです。

そのうえで、自社という「点」だけでなく、「面」で変えていくことが重要になります。旅行客は、どこか一カ所だけに行くわけではありません。その地域でさまざまな体験をします。そのため、一つ一つの観光資源やサービスだけでなく、その地域全体として、顧客にとっての価値を総合的に高めて、他の地域に比べて魅力的にしようとする「ビジネス・エコシステム戦略」が必要になるのです。

この戦略を実行し、一大観光都市を築いたのがアラブ首長国連邦のドバイです。砂漠にある人口わずか330万人の都市ですが、年間1580万人(世界4位)もの観光客が訪れ、285億ドル(約3兆円)の観光収入を獲得しています。都市の観光収入では、2位のニューヨーク、3位のロンドン、4位のシンガポールを抑えて1位です。

観光には「快適な気候」「風光明媚な自然」「豊かで多様な文化」「おいしい食事」などが必要だと一般的に言われます。年間の半分は最高気温が摂氏35度を超える砂漠で、食事やお酒に制限のあるイスラム教を中心とした文化圏であるドバイは、観光立国としてはかなり不利な環境と言えます。しかも、人口の8割以上は外国人で、自国人の労働力に頼ることも難しいのです。

そんなドバイが観光収入1位の都市になることができた要因として、明確なリーダーシップの下、一貫した観光戦略を持って観光資源を構築し、マーケティングの努力を継続してきたことが挙げられます。もともとドバイは中東において、航空トランジットの要所としてある程度の旅行客を惹きつけていました。ところが、飛行機の大型化と飛行距離の長距離化で、トランジットが減少するという危機的状況に直面します。