※本稿は、和田秀樹『認知症でもひとり暮らし』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
世間に広まる認知症への誤解
認知症になると、すぐに危ない人になる。
何も分からなくなる。そんなふうに思っている人は少なくありません。
でも、実際はそんな単純な病気ではないのです。
実際に認知症が始まったら、いろいろなことができなくなっていきます。
でも、だからといって、わざと危ないことをする患者さんはいません。
たとえば、認知症の患者さんがぷらぷら歩いているところを、車にはねられたとします。そのドライバーが悪いヤツで被害者が認知症だと知るや否や「いや、あっちからね、飛び出してきたんですよッ。やっぱり、認知症の人は怖いねー」などと、自分は安全運転をしていたように主張したとします。
これは、医者の常識から考えるとあり得ないことです。認知症の患者さんは、わざと車にぶつかったりはしません。さらにいうと、私の患者さんでいうと徘徊中に車に轢かれた認知症のかたなど見たこともありません。
認知症になって、仮にどんどん知能が衰えたとしても、生き物には安全の感覚というものが残ります。分からないうちに、事故に遭って死んでしまうようなことは起こりません。その点はご安心下さい。
5分前のことを忘れるだけ
認知症の患者さんで、唯一、安全の感覚が麻痺するのは、物忘れにまつわることです。これは、けっこう問題であることがあります。料理をしよう、そう思って火をつける、そのうちにおしっこがしたくなってトイレに行ってしまう、トイレから出たら、あ、ちょっと買い物に行こうといって、火をつけたことを忘れて出掛けてしまう。これは、よくあることです。
だけど、認知症のかたに、刃物を持たせたら人を刺すかといったら、そんなことは絶対にしません。そんな事件はきいたこともありません。認知症のかたが、車を運転したら、わざと人をはねるかといったら、そんなこともしないわけです。認知症のかたでも、車を運転していて、子供が飛び出してきたらブレーキを踏みます。避けようとします。
認知症とは、5分前のことを忘れてしまうだけで、以前からやってきたことはかなり長い間忘れない病気なのです。認知症になったら、わざと危ないことをするとか、何もできなくなるとか、そんなことは決してありません。

