客が増えれば増えるほど儲からない

国内観光客を主対象にしていた時代は、需要がある程度限られていたため、「安くて高サービス」でも十分対応可能でした。しかし、膨大な人口を持つ海外からの観光客を主対象とした場合、「安くて高サービス」を続けていけば、現地の許容量を超える観光客が訪れることにより、“観光公害”の発生、提供側の疲弊・不満、そして顧客満足の低下につながります。客が増えれば増えるほど儲からないという望ましくない状況に陥ってしまうのです。

外国人観光客にとって日本の文化は魅力的だが……。(時事=写真)

しかも、これから日本の就労人口は減っていくわけですから、サービスの担い手の確保はますます困難になります。沖縄は、17年に観光客数が過去最多の939万人となり、初めてハワイを超えました。しかし、18年に県が県民に観光産業で働きたいかを調査したところ、「働きたい・やや働きたい」が合計16.4%、「働きたくない・あまり働きたくない」が合計47.2%でした。価格とサービスレベルのバランスを放置しておくと、このような事例が頻発し、インバウンド・ツーリズムは持続可能ではなくなってしまいます。

したがって今後は、ある程度価格とサービスレベルのバランスがとれた関係をつくりあげるか、サービス従事者に過剰負担を強いない形で、低コストで効率よくサービスを提供する仕組みを工夫する必要があります。

次に、富裕層向けの課題としては2つ挙げられます。1つは、富裕層のニーズと提供サービスのミスマッチです。提供側が「おもてなし」マインドのある高級なサービスであると考えていても、海外からの顧客にはそう受け取られていない場合があります。こうしたミスマッチは、日本がハイコンテクスト文化であることに起因しています。ハイコンテクストとは、コミュニケーションにおける文脈(コンテクスト)の共有度が高いため、あえて説明しなくてもわかりあえるということです。

例えば日本の旅館では、宿泊客が夕方、食事などで外出している間に布団を敷いておくのが当たり前になっていますが、海外からの宿泊客には、なぜそのようなサービスをするのか、説明がなければ理解できません。しかし現状は、こうした文脈を共有する仕組みが非常に弱く、提供側が想定する「おもてなし」が、受け手にとって「おもてなし」になっていない可能性があります。