ホームランよりヒットを打てる人材

VI|AD戦略を推進する久間和生上席常務執行役開発本部長は、その中核のリエゾンマンの役割を次のように話す。

「製作所で問題になっているテーマを研究所に持ち帰り、そこで課題を徹底的にもむ。そしてその製作所の最も強い技術をチェックして、次にどう生かすかを検証する。その橋渡し役になるのが、リエゾンマンです。40人のリエゾンマンが全製作所の全製品に張りついて、次につながる何かを追求しようとするところに、『連携』と『シナジー』による『イノベーション』が生まれると期待しています」

1人のホームランバッターより、ヒットを打てる何人もの人材を集めて地道に取り組むほうが成果が上がる、という考え方が根底にある。「組織の三菱」の真骨頂というべきか、リエゾンマンを媒介にした連携の先に久間はこんなシナジーを展望する。

「これは私の造語ですが、“次の三乗”と呼んでいます。次の研究というのは、どこの会社でもやるんですね。それで次の次を用意する会社もあれば、しない会社もある。我々が三菱電機として本当に闘っていく製品は、次の次の次、つまり次の三乗を目指さなければならない。うちにも強い事業は結構ありますが、たかだか日本一ではないか、世界ナンバーワンにしていくには、このぐらいの三段戦法で攻めていかないと駄目と考え、次の三乗でハッパをかけているところです」

それには多くの試行錯誤を必要とするに違いないが、「これは自慢話になって恐縮ですが」と断って、久間が火付け役になり、複数のリエゾンマンが動いて一つに結実したある製品を話題にした。

「私が先端総研の所長のとき、3つ部屋があるマンションに住んでいたのですが、エアコンが2台しかなく、もうひとつの部屋にいるとエアコンをつけても涼しくならない。どの部屋にも満遍なく風が流れるように工夫してほしいという意味で、『カーブを投げるエアコンを開発しろ!』と指示した結果、あの霧ヶ峰のムーブアイが誕生したのです」

先に谷が気流制御技術の一件を明らかにしたように、久間の鶴の一声をきっかけにリエゾンマンが結集してつくり上げたのが、ヒット商品になったエアコンの「ムーブアイ」なのである。