日本の電機メーカーが苦境に陥った中、「地味」「堅実」と言われた三菱電機は、絶好調だ。2015年度の売上高は過去最高の見通し。なぜこんなにも強いのか。その原点は2001年に打ち出された、あるスローガンにあった。

グーグルと戦わない三菱電機の研究開発

JR大船駅から歩いて約10分。かつて松竹大船撮影所があった地には鎌倉女子大学、鎌倉芸術館など文教施設が立ち並ぶ。晴れた日に心地よい風に吹かれて周囲を歩いていると、何とも爽快な気分になれる。高層ビルが林立する都心よりも、はるかに青空が広く見えるこの地のほど近くに、三菱電機の情報技術総合研究所がある。

所員は800人、研究者の5分の1が工学博士であるという国内屈指の民間研究機関だ。この研究所で開発された世間的に有名なものに、あの気象衛星「ひまわり」がある。ほかにも空港の気流を観測する技術や新幹線の中でインターネットができるデジタル列車無線など、三菱電機のIT、ソフトウェア分野の基盤的な技術開発を一手に引き受けている。

気象衛星「ひまわり8号」

その最新の成果の一つが「漫然運転検知アルゴリズム」だ。運転中のドライバーの注意力が散漫になっていないかどうかを人工知能(AI)で見つける技術で、ハンドル操作などの情報から、集中力が低下している状態を検知する。警告を出して事故を防ぐシステムに応用でき、2020年の実用化を目指している。

この技術が注目されているのは、ITの最先端トレンドであるAIと自動車をつなぐ革新的技術となる可能性を秘めているからだ。この分野で先行しているのは、言うまでもなく自動運転車の開発を進める、あのグーグルだ。日本有数の電機メーカーとしての自負があるならば、その動向は気になるのではないか。そんな問いを向けると、予想とは異なる答えが返ってきた。

「グーグルと戦うつもりはありません。日本はどこで勝てるのか。日本人が一番得意なところで勝負したいというのが我々の思いです」

そう語るのは、知能情報処理技術部長で工学博士の三嶋英俊氏だ。むろん三嶋氏も米国の技術動向は一番の関心事だが、プロの目は世間の感じ方と少し異なっている。

「要するに、資源のある国とない国の違いじゃないかと思っているんです。彼らはとにかくコンピューターでも何でも資源を無尽蔵に使っていろんな研究をするから、奇想天外なこともできるし、すごいものも作る。けれども、実際にモノにきちんと収めて動かすのは日本人のほうがうまいはずです」