今でこそ、AIは最新技術として話題になっているが、実際に研究が始まったのは1980年代後半から。三菱電機でもAIに注目してきたが、グーグルをはじめとしたIT企業がクラウド経由でAIを駆使する中、三菱電機は機器メーカーとしてのノウハウを活かして、機器の中にAI技術を詰め込んで情報を処理するという戦略をとる。同研究所所長で同じく工学博士の中川路哲男氏もこう強調する。

「自分が乗りたいときにやってくるエレベーターや、人の状態に合わせて自動的に温度を調整してくれるエアコンなど、機器そのものが人に合わせて動くようにするのは、一つの価値だと思います。それが、グーグルと同じことをやらないという意味なのです」


(左から)情報技術総合研究所 知能情報処理技術部長 三嶋英俊氏、同研究所 所長 中川路哲男氏、同研究所 副所長 竹内浩一氏

もともと三菱電機において、情報通信は決して強い事業ではなかった。実際、パソコンや携帯電話といった事業からは撤退している。そんな不遇の時代にも研究者たちは腐ることなく、情報通信技術を社内の事業である衛星、エレベーター、電車などに応用すべく懸命に研究を積み重ねてきた。それができたのも、研究開発費が途切れず供給されてきたからだ。

「我々の会社は景気のよし悪しや、儲かるか儲からないかで研究開発に対するリソースを変えているわけではないんです。情報通信というのは将来必要な技術だから、しっかりこれを維持強化していく。そのために、この研究所にずっとリソースを絶やさずに投入してもらっているのです」

こうした研究者の言葉もそうだが、多くの社員たちに話を聞くと、誰もが前向きで、幅広い視野を持っていることに気付く。その理由とは何か。その背景を探ると、三菱電機という会社が大きく変化した興味深いストーリーが見えてくるのである。