五輪招致で痛感、日本人に足りない教養
自分の殻を破る前に、その殻を形づくるための教養がない日本人が多い。それは、本来教養の基礎を築く大学時代に本を読まなくなっているからです。日本の多くの大学は、いまやただの就職機関に成り果てています。本来教養があるうえでビジネスがあるはずなのに、いまの日本の大学、いや社会は、教養の持つ意味や力について自覚がないのです。
そもそも教養がなければ正しい現状認識ができない。現状認識がしっかりできていなければ、まともな解決策を打ち出すこともできません。例えば、戦前は天皇主権で戦後は国民主権、戦前は軍国主義で戦後は民主主義という教科書的な捉え方だと、現状を正しく認識できない。日本はその実、戦前も戦後も官僚主権で、権力の所在がはっきりしないという問題をずっと抱えているのです。
丸山眞男、橋川文三、網野善彦が私の師
こういった国家観、歴史観を捉えるうえでも教養は不可欠です。その礎となる本を、ここに紹介したいと思います。まず、僕の作家としてのテーマである「日本近代史」の基礎をつくった3人の「師」による全集――『丸山眞男集』『橋川文三著作集』『網野善彦著作集』。