日本にはもっと変人が必要だ!

このとき小泉さんという「変人」でなければ、僕を採用しなかったでしょう。変人とは僕のなかで、「自分の固有の価値観で忖度なく意見が言える人」のこと。固有の価値観を育むには、教養が不可欠です。日本には秀才はいっぱいいますが、変人がいない。それは非常に深刻な問題です。東條英機も秀才でした。あの場に1人でも変人がいれば、戦争は避けられたかもしれない。

2013年9月、20年東京五輪の招致を決めた猪瀬氏ら。何がIOC委員の心を動かしたのか。(時事通信フォト=写真)

2020年オリンピック・パラリンピックの招致も、秀才だけではできないことでした。IOC委員に東京の摩天楼を見せても懐には入れない。まだオリンピックを開催したことがない都市が立候補しているなかで、東京で2度目をやることの意味、物語が必要だったんです。そこで、僕は自身の代表作である、世界史の中で天皇制を捉えることに挑戦した『ミカドの肖像』の抜き刷り(英語版)を見せた。IOC委員にはロイヤルファミリーに対する畏敬の念があると知っていたからです。

「わたしの語ろうとしている都市(東京)は、次のような貴重な逆説、〈いかにもこの都市は中心をもっている。だが、その中心は空虚である〉という逆説を示してくれる。禁域であって、しかも同時にどうでもいい場所、緑に蔽われ、お濠によって防禦されていて、文字通り誰からも見られることのない皇帝の住む御所、そのまわりをこの都市の全体がめぐっている」

これは同書の冒頭にある一節で、ロラン・バルトの『表徴の帝国』より引用したものです。モダン(ビル群)の中に無(皇居)があり、それが禅なのだ、と。つまり、日本の近代とは何かというところを東京の魅力と結びつけてプレゼンし、招致に至りました。時に世界をも動かす。教養にはそれだけの力があるのです。

最後にもう1つおすすめの本を挙げます。『私の文学放浪』(吉行淳之介)。吉行さんは男と女がいかに違うかという当たり前のことを上手に説明しています。女の子を口説いて、すぐ振られる男性がいますが、それは男が、女は自分と同じと思っているから。若いとき、とても参考になりました。

(構成=辻 枝里 撮影=横溝浩孝 写真=時事通信フォト)
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