なぜ、世の中の「課長本」は役に立たないのか
実際にこの調査でも「言うことがコロコロ変わる」「仕事内容を理解していない」「話が通じない」という声が上がっている。
部下との関係だけではなく、上司との間のギャップやズレがストレスを増大させていることがわかる。こうした傾向は今に始まったことではなく、平成の時代も長く続いていた。
JTBコミュニケーションデザインの課長1000人アンケート調査(2019年4月12日)によると、平成時代を課長として過ごした日々の感想を聞いたところ、多い順に、
「ストレスが多い」(46.8%)
「上司と部下の板ばさみになる」(37.1%)
「課長としてこれでいいのかと不安がある」(34.0%)
「忙しく、時間の余裕がない」(32.6%)
と続く。前向きな感想は少なく、つらい思い出だけしかないようだ。
ではどうすれば課長としてうまくやっていけるのか。
課長のあるべき姿を説いた巷の「課長本」に出てくるのは「プレイヤーの仕事をしないで、部下の育成と指導を通じて課の成果を最大化すること」というフレーズが必ず登場する。確かに部下の育成は重要な仕事であることは間違いないし、そのことを十分に認識している課長も多いだろう。
しかし、「課長ですから、プレイヤーの仕事をやりません」で通じる時代ではない。それどころかプレイヤーの比重がむしろ高まっている。
プレイヤーの仕事も含め「業務量が増加している」
産業能率大学の「上場企業の課長に関する実態調査」(2017年11月)によると、「プレイヤーとしての仕事がある」と答えた人は実に99.2%もいる。また、プレイヤーとしての活動がマネジメント業務に支障があると答えた人が59.1%も存在する。
さらに課長として悩んでいることで最も多いのは「部下がなかなか育たない」(39.9%)、2番目に多いのが「部下の人事評価が難しい」(31.9%)と、部下に関する悩みが上位を占める。しかも「部下の人事評価が難しい」「部下の人事評価のフィードバックがうまくできない」「部下が自分の指示通りに動かない」との回答は前回調査(2015年11月)より増加している。
これは明らかに部下とのコミュニケーションの時間が減っていることを物語る。
最大の原因はプレイヤーの仕事も含めて「業務量が増加している」からである。業務量が増加していると答えた課長は第一回調査(2010年9月調査)では54.2%だったが、今回は58.9%と、年々増え続けている。これでは部下育成などのマネジメント業務に支障を来すのは当然かもしれない。
そうでなくとも部下のマネジメントは以前よりも難しくなっている。昔は年上の課長の下に若い男性社員がいるのが職場の普通の光景だったが、女性社員の増加に加えて、雇用区分の異なる派遣や契約社員もいれば、近年では外国人社員もいる。そもそも管理職の数も減っている。
1989年には大卒の男性で50~54歳の管理職比率は72.3%だったが、2017年には46.6%まで減少している(厚労省「賃金構造基本統計調査」、従業員1000人以上の企業)。
50代前半で2人に1人しか管理職になれないということは残りの半分は平社員、つまり年上の部下が増えているということだ。50代の平社員の中にはプライドだけは強いが、仕事の能力は今ひとつという人も少なくない。年下の上司が年上の部下を指導することはただでさえ難しい。