失敗その2=過度な利上げ

失敗その2は「過度な利上げ」だ。2018年の米国は、若干イレギュラーな経済環境に置かれていた。大幅な「トランプ減税」の実施による好景気を享受していたためだ。しかし、減税効果はいずれ剥落する。足元の景気が強いからと言って積極的に利上げを進めることは、ためらわれる状況にあった。

また、利上げとは別に、FRBは保有資産を圧縮するという「量的引き締め(量的緩和の逆)」政策を2017年10月以降から行っていた。同政策はFRBの歴史の中でも初めての取り組みであり、どのような政策効果が発現するか事前にはわからない、いわば「パンドラの箱」でもあった。

量的引き締め政策の開始以来、FRBが保有してきた米国債などの売却懸念からの需給が悪化し、じわじわと中長期の金利が上昇し始めた。しかしこの金利上昇のうち、どの程度が減税に伴う好景気を反映したもので、どの程度が量的引き締めによるものなのか、判断することは難しい。このような状況下で、FRB関係者の中でも、量的引き締めに加えて金利を引き上げるという利上げを、拙速に行うことへの警戒心を強める者が増え始めた。

そうした声をパウエル議長は黙殺するわけだが、この文脈において象徴的だったのは2018年10月のテレビインタビューだ。ここで同氏は「(現在の政策金利は)中立金利に程遠い」との発言を披露する。しかしここで思い出してほしい。同氏は「中立金利は当てにならない」と、同金利をけなした人物だ。中立金利の推計値が当てにならないのに、なぜ現在の政策金利が程遠いと言えるのだろうか。かくして、パウエル議長率いるFRBは、量的引き締めに加えて、4回もの利上げを2018年に行った。これが2018年10月から12月にかけて発生した、金融市場の大混乱を招くことになる。

なお、この話には後日談がある。同氏は11月の講演で「現在の(政策)金利は、(ドット・プロット等で描写される中立金利の)レンジのすぐ下にある」つまりそろそろ利上げを停止しますよ、と発言する。しかし同発言は、8月の発言に対しても、10月の発言に対しても、まるで整合性を保てない。

それでもあえて発言の意図をくむとすれば、以下のようなものだったのかもしれない。2018年10月から11月にかけて、米国を含む世界の金融市場は大きな混乱に見舞われた。そうした状況の中、金融政策の引き締め懸念を緩和するためになされた発言ではないか。そのような見方が市場では広がった。