パウエル議長が犯した4つの失敗

具体的に言えば、①政策ルールの放棄、②過度な利上げ、③市場との対話不全、④金融緩和の初動ミスと、その結果としての逆イールド出現などが該当する。これらの失敗により繰り返された金融市場の混乱が、2018年11月の中間選挙に及ぼした影響は無視できない。同様の事態が再発した場合、2020年11月の大統領選挙と議会選挙においても、トランプ政権にとって望ましくない効果をもたらす可能性が高いだろう。

念のため断っておくが、本稿でトランプ大統領の肩を持つつもりはない。しかし本件に関しては、あまりにもパウエル議長に同情的な見方が多いように感じられる。そこで本稿では、パウエル議長が犯してきた4つに失敗をつぶさに確認し、その上で、米国金融政策の現状と処方箋を客観的に整理する。

失敗その1=政策ルールの放棄

失敗その1は、「政策ルールの放棄」だ。FRBも含め、多くの先進国の中央銀行では、「中立金利」——その国の経済の実力に見合う金利の水準——を参照しながら、金融政策を調節することが一般的だ。

雇用が弱くインフレ率が低い時期はこの「中立金利」よりも低い政策金利を設定して景気を刺激し、逆に雇用やインフレ率が目標値を超えて強まれば「中立金利」よりも高い政策金利を設定し、景気を冷やす。

しかし、パウエル議長はこの政策ルールに対し、就任早々から「ちゃぶ台返し」を浴びせている。2018年8月に行われた講演の中で同氏は、中立金利のリアルタイム推計値が信頼に足るものではなく、これに政策は依拠するべきではないと言い放ったのである。

中立金利のリアルタイム推計が困難であることは、学問的にも認められている事実である。しかし、完全に信頼できないながらも、中立金利の推計をある程度参照しながら、政策金利の最終地点を描かなければ、そこに向けた金融政策運営の経路を描くことは難しい。

そうした認識を背景として、FRBはボードメンバーの想定する中立金利、および、利上げの経路(いわゆるドット・プロット)を公表し、同プロットを通じて金融市場との対話を行ってきた。それを完全否定し、ドット・プロットの公表すら停止しようと提案したパウエル議長の主張は横暴が過ぎる。

また、この「ちゃぶ台返し」の後、建設的な代替案は示されていない。すなわち、パウエル議長が率いるFRBが何を根拠として金融政策を運営しているのか、明示的にはわからない状況が現在に至るまで1年間続いていることになる。