参院選で自民党を選んでしまう人の心理メカニズム
また、内閣府の発表する実質経済成長率の推移をみると、民主党政権発足以前の2008年度はマイナス3.4%だったが、同政権発足の2009年度はマイナス2.2%とやや持ち直し、2010年度は+3.3%となった。東日本大震災があった2011年度は数字は+0.5%と落ち込むものの、翌年度は+0.8%だった。それに対して、自民党政権でアベノミクスが存分に発揮されているはずの2018年度は+0.7%であり、民主党政権時代は「ひどい経済状況だった」とはとても言えないはずなのだ。
仮に野党のほうが過半数になると政権運営が不安定になったり、衆議院で決まったことが参議院でひっくり返されたりする可能性があるなど、不安定な状況が生み出されるリスクはある。だが、今回の参議院の非改選の議席を考えるとその心配もなかった。
そんな選挙だったにもかかわらず、今の安倍内閣の政権運営に審判を下そうという声はほとんど聞かれなかった。
得をしたいという気持ちより、損を避ける気持ちのほうが強い
この連載のテーマは「賢い人をバカにするもの」の背景を探ることにあるが、インテリ層がこぞってトランプを批判するアメリカと違って、日本はインテリ層のほとんどがかつての民主党政権時代を暗黒時代と見なし、安倍内閣支持=現状維持志向のように私には見受けられる。
私は、賢い人をバカにする要因として、心理学的なさまざまなバイアスに注目している。
例えば、行動経済学である。「人間は合理的な判断をする」という経済学の原理に従わず、合理的な判断をしないことがある。その際に人々の心理に働いているバイアスなどを研究テーマのひとつとしているのが行動経済学だ。
行動経済学の分野は、21世紀に入って3回もノーベル経済学賞を受賞している。その中のひとつに「現状維持バイアス」がある。人間は本質的に、得をしたいという気持ちより、損を避ける気持ちのほうが強い。変化によって得をする見込みがあっても、現状維持によって損をしないという選択をしてしまうというものだ。「自民党支持」という今回の選挙での国民の審判は、この原理が作用しているのではないか。
1万円損した不快な気分は2万25000円儲けた幸せに匹敵
得をしたい<損を避けたい。そんな心理が顕著に出る、わかりやすい例を挙げてみよう。行動経済学者たちの研究では、
A.10万円の商品を1万円値引きして買った(1万円得をした)
B.10万円で買った商品を別の店で見たら9万円で売っていた(1万円損をした)
という場合、得をした幸せな気分より、損をした不快な気分のほうが強く、長く感じることになるという。行動経済学者たちの推計では、損をしたときの心理的インパクトは得の2.25倍だという。
つまり、1万円損したときの不快な気分は、2万25000円儲けたときの幸せに匹敵するということだ。