「もう彼には関わりたくない」

元少年Aが手記を出版したと知ったとき、京子さんは、それまで届いていた手紙をすべて破棄したという。「もう彼には関わりたくない」と。そして、2017年6月、乳がんのため61歳で世を去った。

松井 清人『異端者たちが時代をつくる』プレジデント社

2016(平成28)年、2017(平成29)年と、元少年Aは手記出版後も手紙を送り続けるが、両家とも受け取りを拒否している。

——羽柴さんとしては、A君が遺族に、きちんと謝罪するところまで持っていきたかったでしょうね。

「山下京子さんは生前、A君に『一度会ってもいい』とまでおっしゃっていたんです。もちろん簡単ではないでしょうが、そこまでの気持ちになっていただいていた。その矢先の『絶歌』出版でした。あの年の彼の手紙に対する土師さんの談話でも、本当にここまでおっしゃったのかと思うくらい、高い評価をいただきました。

そこまで来ていたんですよ。残念です。突然に『絶歌』が出たせいで、長い時間をかけて築き上げてきたものが、何もかも壊れてしまったんです」

出版からかなり時間がたったころ、元少年Aの代理人から、印税の一部を賠償金に充てたいが、どうしたらいいかと、相談の電話があったという。

「自分で考えなさいよ!」

羽柴弁護士は、そう吐き捨てるように言って、電話を切った。

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