※本稿は、松井清人『異端者たちが時代をつくる』(プレジデント社)の第6章「『少年A』の両親との20年」の一部を再編集したものです。
羽柴弁護士の22年
元号が令和に変わる少し前の、2019(平成31)年2月。私は、神戸市中央区にある中神戸法律事務所に羽柴修弁護士を訪ねた。
羽柴さんが、名前を出してマスコミの取材に応じることは、めったにない。表に出ることはほとんどなく、陰に回って22年間、ずっと少年Aの両親と家族を支え続けている。Aの弟二人を含む家族の落ち着き先など、生活全般をサポートし、被害者遺族への謝罪の橋渡し役となり、一時は絶縁状態だったAと両親の関係を修復しようと、ありとあらゆる手段を講じてきた。
ほぼ無償で引き受けた、その筆舌に尽くし難い22年間の労苦を、私のこの本に記しておきたい。それが神戸再訪の理由だ。
事件当時48歳だった羽柴弁護士は、もう70歳になる。
——羽柴さんはなぜ、この事件に関わることになったのですか。
「兵庫県弁護士会の中に刑事弁護センターというのがありまして、私はその委員長をしていたんです。ちょうどあの年、兵庫県に当番弁護士制度ができましてね。大変な事件ですから、容疑者が逮捕されたら派遣しよう、と事前に決めていたんです。A君が逮捕された土曜日の夜は、台風が来ていたと記憶しています。
犯人が少年だと知って、これは必ず弁護士が必要になると思い、委員長だった私を含めて四人が、先発隊として須磨警察署へ行きました。ですからA君に初めて会ったのは、逮捕されたその日、6月28日の夜です」
「エグリちゃん」という醜い女の子
——Aはどんな印象でしたか。
「普通の少年は、顔を強張らせたりして、不安な表情を見せるものですが、そういうことは当初からありませんでした。事件については認めるでもなく否定するでもなく、淡々としていました。『ちょっとこの子は、我々がいままで担当してきた少年事件の子とは違う』という認識でしたね。
当初私たちは、『本当に彼が犯人だろうか。少年一人であれだけのことができるのか』と、懐疑の念でいっぱいだったんです」
——黒ジャンパーの中年男とか、ゴミ袋を持った男とか、いろいろ目撃証言もありましたからね。
「ただ、刑事記録を全部謄写した中に、彼が淳君の遺体の頭部を鮮明に描いた絵がありました。捜査官の話によると、それほど時間をかけたわけではなく、記憶のまま一筆書きのように描いたそうです。あの絵を見たときは本当に驚きました。
それから、空想上の遊び友達だという『エグリちゃん』という醜い女の子の絵。こういうものを見るにつれ、彼の中に病的な、相当に奥の深い暗闇があることがわかってきました。7月に神戸家裁で審判が始まる時期には、彼の犯行に間違いないと思っていました」
Aが「エグリちゃん」と名付けた空想上の友達は、身長45センチぐらいの女の子。グロテスクな醜い顔で、頭から脳がはみ出て、目玉も飛び出している。エグリちゃんはお腹が空くと、自分の腕を食べてしまうという。