「異業種だから学ぶことはない」と模倣すら放棄する
目の前に学ぶべき優れた実務が存在するのに、多くの企業はそれを模倣しようともしない。模倣を放棄する第一の理由は、「異業種だから学ぶことはない」だろう。しかし、異業種のベストプラクティスには、自社を好業績に導くヒントが潜んでいる。学ばないのはもったいない。「異業種だから学ぶことはない」のではなく、「異業種ゆえに学びが多い」と考えるオープン・イノベーションの考え方を採用しないといけない。
模倣を放棄するもう一つの理由は、模倣の対象企業があまりにも優れているため、とても近づくことができないと諦めてしまうからだろう。好業績企業の前に立ちすくみ、挑戦は無謀だと思ってしまうのだ。その気持ちはわからないではない。しかし、羨望するだけでは何も得られない。それに、模倣とはまねることを通じて学ぶこと、つまり「真似(まね)ぶ」ことであり、そんなに難しいことではないのだ。
優れた業績をあげる企業を目指すための王道は、模倣である。そのことは十分に承知されていることは、「同業他社分析」が当たり前のように実施されていることからわかる。この分析は、他社の状況を知るためにだけ行われているのではなく、良い点を見つけ出してそれを模倣し実践に結び付けるために行われている。そうであるとすれば、同業種よりも学びの多い異業種に成功する仕組みを見いだし、それを模倣することが大切になる。
ただ、多くの企業が実践している他社の優れた実践や事業の仕組み(ベストプラクティス)を模倣する、その進め方はあまり成功しているとはいえない。その理由は2つある。一つは「つまみ食い」であり、もう一つが「丸写し」である。
なぜ「つまみ食い」は失敗するのか
模倣を放棄せずに、学ぶことを決めたとしよう。これで第一関門を突破したことになる。ただ単純に模倣を試みると、失敗を経験することになる。結論から言えば、模倣の仕方を誤ると、成果は得られない。「真似び」方を学ばなければならない。まず、誤った模倣の2つのタイプのうちの一つである「つまみ食い」が失敗する理由を説明しよう。
冒頭に示した業績を上げているキーエンスについて研究を進めると、高収益を支えているビジネスの仕組みの構成「部品」が理解できるようになる。部品リスト(すべてではないが)を作成すると以下のようになる。
・営業担当者はすべてエンジニアである
・代理店経由ではなく直販方式を採用している
・値引きには応じない
・ファブレス(製造は町工場への委託生産)である
・個別顧客のニーズに応じる受注生産ではなく、標準品の見込生産方式を採用している
さらにもう少し同社の研究が進めると、
・従業員の平均年齢が35.8歳と若いことに加えて、従業員の平均年収は2110万円と驚異的に高い
・棚卸資産回転率は年間16回、平均在庫日数が22.8日である
・中途採用のセールス担当のエンジニアの離職率が非常に高い
ことなどにも気づくであろう。「真似ぶ」ことは、このような構成部品リストの作成から始まる。
さて、キーエンスから学ぼうとする企業の多くは、次のように考えるのではないだろうか。
・わが社は、製造業である。やはり、顧客のニーズを感覚的ではなく、スペック(仕様)で表現できる営業担当者が不可欠である。そのためには、技術系の営業担当者の数を中途採用で増やした方がよい
・製造原価を低減するためには、なお一層ファブレス体制を強化する必要がある