このような、比較的簡単に導入できそうな部品を真似る安易な模倣、構成部品の「つまみ食い」は必ずと言ってよいほど失敗を経験することになるだろう。キーエンスの高収益は、ファブレスによる徹底した原価低減だけで実現しているのではなく、類似の製品と比較した場合、非常に高価格を設定し、そのうえ、値引きしないことで実現しているからである。

製造をただ単に外注しているわけでなく、試作品の製造子会社を持ち、安価での製造と作りやすさの追求を徹底的に行っていることも、合わせて学ばなければならない。ただ単に、技術系営業担当者を増強するだけでは高収益に結び付かない。キーエンスの技術系営業担当者に与えられているミッションは、売上高の増大よりも、顧客の望む製品への期待をスペック情報として獲得することに重きを置いていること、そのため、それができる技術系営業担当者を厚遇する必要があることを理解しないといけない。つまり、「ファブレスの強化」や「技術系営業担当者の採用」という部品を模倣するだけでは高収益は実現しないのである。

挑戦的で無謀だと思える仕組みから始める

部品から模倣するのであれば、挑戦的で無謀だと思える仕組みから検討を始めるとよい。そうすることで、関連する仕組みも自然に視野に入ってくるのである。たとえば、

・50%を超える売上高営業利益率を目指す
・従業員の平均給与2000万円をめざす
・個別受注から標準品の量産体制に移行する
・在庫量を現在の10分の1に圧縮する
・値引きには一切応じない。価格は自社の提示価格とする

などの事業の仕組みから模倣を始めるのである。

このような模倣に挑戦する企業はきっと皆無だろう。挑戦することすらなえさせるような高い目標と考え、現状を前提にすると採用できないアイデアだと即断してしまうからである。しかし、意外かもしれないが、模倣の出発点は無謀な部分に置いた方がよい。それは、特定の部品を採用するだけでは高収益に結び付かないことがわかり、高収益を獲得するためには、視野を広げて多面的な方策を学ばなくてはならないことが理解できるからである。

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例えば、平均給与2000万円を支払えば高い営業利益は獲得できないと、すぐに思考を中断してはいけない。この額を支払ってもなぜ高収益なのかを検討するのである。そうすれば、同社社員の離職率の高さに気づくだろう。

中途入社した社員の大部分が短期間で退職することがわかれば、支払い給与以外の人件費(退職給与引当金、社会保険料企業負担額、福利厚生費等)の企業負担額が少ないのだ。つまり、キーエンスでは、給与は高いが人件費総額は低く抑えられていることがわかる。

また、標準品の見込み生産を行っているのに、棚卸資産回転率が極めて高いことから、標準品がコンスタントに売れていることがわかる。ここまでわかれば、標準品が流れるように売れていくメカニズム(売れない製品は開発製造しない、標準品なのに業種業態を問わず需要があるなど)の解明の必要性が認識されるようになる。

以上のことから、ビジネスの仕組みの部品の一部分だけを採用することには大きな落とし穴があり、仕組み全体の採用が必要なことが理解できるだろう。「つまみ食い」は厳禁である。