期末を目前に控え、各企業では「収益目標必達」に向け拍車がかかる季節を迎えている。その背景にあるのは、会計的な評価や管理である。だが実は、こうした会計的コントロールだけでは、目標達成はおぼつかないのだ。同志社大学大学院の加登豊教授は「会計的コントロールのみが目標達成の唯一の手段だという思い込みがある。たとえば京セラは企業哲学と会計制度の組み合わせで目標達成を実現している」という――。
今回の一穴:予算管理を財務目標達成の唯一の手段と思っている

近江商人「商売十訓」を忘れた日本企業

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企業の決算短信を読んでいて、ずっと気になっていたことがある。それは、特に経営成績の概況に関する記述である。大部分の企業は、企業を取り巻く環境に関する説明、景気の動向、業界内での動き、顧客の動静等に関する記述を踏まえて経営成績の概要を説明している。

なにが気になるかというと、業績が振るわないときには、その理由を環境や景況のせいにしているように読み取れることである。また、好業績に関しては、自社の戦略や打ち手が功を奏したと、自画自賛する傾向が存在するように思われるからである。

商売の達人たちを多数輩出した近江商人には、「商売の心得十訓」というビジネスの要諦がある。広く知られている「三方(自社、顧客、そして世の中)よし」を実現する具体的な行動や考え方を示しているのが「商売の心得十訓」」であるが、その中には、つぎのような言葉がある。

「商売には、好況も不況もない。いずれにしても、儲けねばならぬ」

多くの企業の決算短信の記述は、近江商人の叡智がまったく活かされていないように感じられる。低業績は経営陣の不徳によるものであり、好業績は環境が提供してくれた追い風であるという謙虚さがほしい。もちろん、計算上の儲けをねん出するという愚かな行動は問題外である。

財務的目標を達成する手段は会計的コントロールだけではない

経営成績を悪環境のせいにしてはならないことを近江商人は教えてくれている。経営環境がどうであれ、目標は必ず達成する必要がある。しかし、目標を達成する仕組みはいかにも稚拙である。

大多数の企業は、利益目標を達成するために予算管理という会計的コントロール手段を採用している。ただ、予算管理だけでは不十分で、それを補っているのが組織構成員の頑張りである。目標未達が予想される時には、檄を飛ばす。担当者は、「粉骨砕身頑張ります」と精神論を繰り返す。これらの活動が成果をうまなかった時には、「これだけ頑張ったのにだめでした」という言い訳が認められる。そして、目標未達の原因を環境のせいにする。このようなことの繰り返しでは、安定した経営成績を維持し続けることは困難である。

精神論や経営環境変化という“言い訳”を許す経営でいいのだろうか。そんなはずはない。いかなる状況でも利益を達成できるようにするためには、組織構成員への多様な働きかけやコントロールが必要である。

目標達成には、人材を適材適所に配置しなければならない。経営資源の配分を適切に行う必要もある。目標はまっとうな取り組みを通じて達成されなければならない。企業の理念を念頭に置き選択行動の範囲を定めることも大切である。上司と部下の間で必要に応じて濃密なコミュニケーションをとる「場」を設定し、そこでの徹底的な議論を行い、よりよい方策を上司と部下がともに納得できるようにすることへの配慮も必要である。