(2)事業と倫理の境界システム

信条システムだけでは、やるべきことの絞り込みはできない。また、組織構成員が信条に基づいて行動したどうかを判断することはできない。このような信条システムの限界を克服するためには、事業と倫理の境界システムが必要となる。

事業と倫理の境界システムは、経営資源を浪費しないように事業機会の探索範囲(戦略ドメイン)を定めるものである。わかりやすく説明すると、「やってはいけないこと」「足を踏み入れてはいけない領域」について、企業行動の面でも、倫理的な判断についても、境界線を設けるコントロールを行うのである。これによって、リスクを軽減することが可能になる。

境界システムが健全に機能すれば、予算未達の場合の期末の押し込み販売や必要不可欠な支出の抑制(とりわけ大きな問題は、将来のために必要不可欠な投資の断念である)などを防ぐことができる。

ただ、気をつけないといけないことは、「なにをなすべきか」を境界システムは教えてくれないということである。それは、トップマネジメント、そして、中間管理者、そして、現場の人たちが決めないといけないことなのである。

(3)診断的コントロール・システム

予算管理に代表される会計的コントロール・システムとほぼ同義なのが、この診断的コントロール・システムである。換言すれば、計画に基づき設定した目標を結果的に達成できるように導くシステムである。重要業績指標に注目した重点管理が、診断的コントロールではしばしば採用される。

すでに述べたように、大部分の企業では、診断的コントロール・システムのみに依存して目標達成を目指している。予算編成時には、「費用は多めに、収益は少なめに」に予算原案は策定される傾向がある。これを防ぐには、信条システムが必要である。また、実績数値の改ざん等が生じる危険性もある。内部統制や業務監査を通じて、改ざん等の不正行為を防止するのが一般的対応であるが、それだけでは問題が解決しないことは、数多くの会計不祥事の事例からも明らかである。内部統制や業務監査の限界を克服するためにも、倫理の境界システムが必要となるのである。

診断システムが機能するのは、信条システムと境界システムの助けが不可欠なのである。

(4)インターラクティブ・コントロール・システム

予算編成時には、想定できなかった環境変化が生じた場合、作成された予算は、無力となる。それだから、環境変化を認識し、それを予算に反映させる必要がある。

戦略変更、それが抜本的なものであれ、一部分にとどまるものであったとしても、事前に設定された目標値の変更が必要になる。この目標値の変更は、予算の修正という形をとることもあれば、当初の予算には手を加えず(予算修正には、時間その他の経営資源の投入が必要となるので、それを行わないこともある)、目標値のみを変更することもある。

さて、目標値の変更にあたっては、当初、計画された行動の変更が伴うことが多い。例えば、収益性が極めて高い製品に、ライバル企業の強力な新製品が登場したことにより、期待していたマーケットシェアの確保が困難になり、予想利益の達成が困難となる事態が生じたとしよう。

このような場合に、とるべき方策は、(1)広告宣伝費を追加投入し、先行者利益の確保に努める、(2)営業部隊を強化し、自社製品の売り上げ減少に歯止めをかける、(3)競合企業に対する差別のために売価を引き下げ、予想売上数量の確保に努める、(4)競合製品の売り上げ動向に対する調査は行うものの、性急な対応を行うのではなく、他の製品の売上の伸長に注力し、当初の全社予算目標の達成をめざすといった4つのオプションが考えられる。