さて、これらの方策のうち、どれが最も望ましい方策といえるだろうか。それを決定するには、設計開発部門による他社製品の技術分析・コスト分析・マーケティング戦略の解明、営業最前線にいる営業員の市場での反応の収集と分析などが最低でも必要となる。つまり、現場から離れたところにいるトップマネジメントが、独自に方策を決定するのではなく、現場からの情報収集に加えて、現場との対話を通じたインターラクションが必要となる。ここで、活用されるのが、インターラクティブ・コントロール・システムである。

このシステムが機能するためには、以下の三つの条件を整えておく必要がある。一つ目は、トップマネジメントと現場担当者の対話の「場」を準備することである。二つ目は、現場担当者が、現場情報を的確に伝え、ときには、現場管理者感覚でとるべき方策を提言し、トップマネジメントとの対話を通じて、最もふさわしい方策を見出することである。三つ目は、トップマネジメントが、現場管理者の声を真摯に受け止め、対話を通じて採用する方策を決定するという、柔軟な対応を行うことである。

部下からの定時報告や月次決算情報だけからは、戦略変更の必要性を読み取ることは困難である。報告に基づいて例外管理を行うだけでは、緊急の対応も難しい。当初構想していた戦略とその実行を支える予算等の会計的コントロール・システムだけでは、臨機応変に戦略を創発することはできないのである。環境変化の兆候は、現場に現れる。現場で生じる些細な変化を察知する現場力と、大所高所での経営判断を任務とするトップマネジメントの叡智が合体して初めて、良質の戦略変更が可能となる。

何事も独自の判断で決定・行動をするトップマネジメントは、そもそも、インターラクティブ・コントロールの活用を自ら放棄していることになる。そのようなトップマネジメントから、「自由に、思うところを発言し、提言してほしい」と言われても、過去の経験もあるので、現場担当者は、正直に現場の声を発することに躊躇するだろう。また、対話の「場」が提供されていなければ、伝えたいことを伝えることすらできない。さらに、信条システムと倫理の境界システムが機能しないと、トップマネジメントが喜ぶ情報のみを提供し、現場に問題があることを伝えたがらない。

予算管理に命を吹き込む

いま現在、期末を目前に控え、冒頭で挙げたドタバタ劇が繰り広げられているに違いない。だが、このようなつまらない年中行事とは、そろそろ決別してみてはどうだろう。この時期にこそ、予想される業績に関して、4つのマネジメント・コントロールの要素(信条システム、事業と倫理の境界システム、診断的コントロール、そして、インターラクティブ・コントロール)がどのように影響を与えているかを冷静に分析し、次期以降の長期継続的利益の獲得をめざしてはどうだろうか。

そして、次期の予算編成を行う時には、4つのマネジメント・コントールと人的資源管理の計画についても「予算編成方針」の中で言及し、核となる診断的コントロール手段である予算管理を機能させるようにする。すぐには、うまく作動しないかもしれない。しかし、地道な改良を続けることで、よりよい予算管理、命が吹き込まれた予算管理を手にすることができるようになるだろう。

すぐれた理論や手法のほぼすべては、経営実践の中から生まれてくる。マネジメント・コントロールの4つの要素をどのように組み合わせるとよいのかは未解明であるが、京セラのアメーバ経営に、そのヒントが隠されている。あえて単純化すれば、「京セラフィロソフィー」が信条システム、事業と倫理の境界システムを担い、「時間当たり採算計算」という会計的コントール・システムが、診断的コントロール、そして、インターラクティブ・コントロールを担い、この二つが補い合いながら、アメーバ経営が実践されていると言えるだろう。

予算管理を財務的側面からだけでなく、マネジメント・コントロールも組み合わせながら実践するという新しい予算管理の仕組みの構築が急務である。

加登 豊(かと・ゆたか)
同志社大学大学院ビジネス研究科教授
神戸大学名誉教授、博士(経営学)。1953年8月兵庫県生まれ、78年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)、99年神戸大学大学院経営学研究科教授、2008年同大学院経営学研究科研究科長(経営学部長)を経て12年から現職。専門は管理会計、コストマネジメント、管理システム。ノースカロライナ大学、コロラド大学、オックスフォード大学など海外の多くの大学にて客員研究員として研究に従事。
(写真=iStock.com)
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