※本稿は、川上昌直著『「つながり」の創りかた』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。
サブスクはものづくり企業にとって「劇薬」
サブスクリプション(定額制)に代表されるような継続的な収益を実現するリカーリングモデルは、課金を変えるだけでは不十分です。ビジネスモデルを変えたわけではなく、収益の取り方を変えただけになってしまうからです。サブスクリプションについて少し調べただけでも、収益が多角化できたり、継続したりと、経営者にとっては魅力的な文言が並びます。
しかし、特に製品を割安で売り、単品の利益を積み重ねる「売り切りモデル」で成果をあげてきた企業にとって、リカーリングモデルは劇薬です。正しく使わなければ、取り返しのつかないことになる可能性があります。
そこで、必要なのはビジネスモデルの本質を捉えること。基本に立ち返りましょう。論者によりまちまちですが、ここではビジネスモデルを以下のように定義します。
ここで対象を「顧客」ではなく、「ユーザー」としているのは理由があります。売り切りモデルでは疑う余地のなかった「顧客」の定義が曖昧になってきているからです。顧客は代金を支払ってプロダクトを購入し、利用する(している)人物を指します。しかし、デジタル化の進展によって、自身が利用するプロダクトの代金を、他者(あるいは他社)が支払っていることが多く見られるようになりました。売り切りモデルでは考えられなかったことです。
価値提案を考えないビジネスモデルは危険
たとえば三者間市場(広告モデル)では、ユーザーの代金を、広告主が支払います。また、製品は無料、高度な機能は課金するというビジネスモデルのフリーミアムでは、無料ユーザーの代金を有料ユーザーが支払います。その証拠に、あなたのスマートフォンに入っているアプリを確認してください。お金を払っているものは、ほとんどないでしょう。そのため、ここでは「顧客」ではなく「ユーザー」という言葉を使うことにします。
話を戻しましょう。こうしたビジネスモデルの概念をもとに、リカーリングモデルを見つめ直せば、本質的な問題が見えてきます。リカーリングモデルは、収益化(マネタイズ)の仕組みにすぎないのです。その前提には必ず、ユーザーへの価値提案が存在しています。マネタイズの仕組みのみを充実化させても、肝心の価値提案がそれに対応していなければ、ビジネスモデルとして正常に機能しないのです。
価値提案に配慮しないマネタイズの強化は、危険きわまりない行為です。もし、それを考えずにマネタイズを変更してうまくいったとしたら、偶然にも、元の価値提案とマネタイズがマッチしていただけなのです。