その結果、ユーザーは目的を見失い、せっかくあなたの企業のプロダクトを使っていたのに、解約してしまうかもしれません。リカーリングモデルを採用する企業において、解約や離反は命取りです。販売後にこそコストをかけるべきですが、その重要性を理解していない企業が数多く見受けられるのです。

たとえば保険業は、ユーザーとの関係が販売後に始まる意味で、もともとリカーリングのビジネスモデルです。しかし、そのことを理解していないセールスパーソンが多いので、リカーリング的なものに終始してしまいます。これでは、せっかく契約したユーザーも解約したくなるでしょう。

ユーザーとの継続的な関係が収益につながる

ところで、売り切りモデルにおいても、リカーリングモデルのように、販売以後もユーザーとの関係を保ち、収益の継続をねらった考え方があります。それが、ユーザーの「生涯価値」(LTV=Life Time Value)です。LTVのテーマは既存ユーザーにたくさん購入してもらうため、ユーザーが生涯にわたってその企業からプロダクトを買い続けてもらうためにどうするかを検討することです。

川上昌直『「つながり」の創りかた』(東洋経済新報社)

ただし、売り切りモデルでLTVへの取組みをうまく実現できている企業は、実際のところそう多くはありません。なぜなら、販売した時点が企業のゴールと捉えているところが多いからです。LTVを検討するほうが良いことはわかっていても、目先の売り切りに奔走するうち、LTVへの取組みを実行しきれず、ただ販売してゴールを迎えてしまうのです。

見方を変えれば、売り切りモデルは、販売後もユーザーと関係性を継続することが必要条件ではないともいえるのです。

しかし、リカーリングモデルは違います。リカーリングモデルは、販売後も継続してユーザーと関係性を持つ、すなわち「つながり」を考えることが必要条件なのです。ユーザーとの継続する関係こそが、継続する収益の源泉になるのです。

リカーリングモデルでは、プロダクトの販売そのものでは利益回収を期待せず、ユーザーの利用期間や支払いに応じて収益をつくります。いったん導入を決めれば、その後は必要に応じてユーザーが自発的に利用し、支払いをするので、収益が継続します。

もちろん継続して利用してもらうためには、ユーザーにとってメリットのあるサービスや手当てが必要です。いずれにしても、次々とプロダクトをつくっては、薦めて販売して利益回収する、その繰り返しをする売り切りモデルとは、根本的にビジネスモデルが違っているのです。

川上 昌直(かわかみ・まさなお)
兵庫県立大学国際商経学部教授
1974年大阪府生まれ。福島大学経済学部准教授などを経て、2012年兵庫県立大学経営学部教授、学部再編により現職。博士(経営学)。「現場で使えるビジネスモデル」を体系づけ、実際の企業で「臨床」までを行う実践派の経営学者。専門はビジネスモデル、マネタイズ。初の単独著書『ビジネスモデルのグランドデザイン』(中央経済社)で日本公認会計士協会・第41回学術賞(MCS賞)を受賞。『「つながり」の創りかた』(東洋経済新報社)、『ビジネスモデル思考法』『マネタイズ戦略』(いずれもダイヤモンド社)など著書多数。
(写真=iStock.com)
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