シェアリングエコノミーなどに代表される「安く、お得に」という経済概念の広がりは、雇用や他者とのつながりを壊しつつある。社会学者の鈴木謙介氏は「こうした経済概念への反発が世界中で起きている。長い人生を幸せに生きるには、他人同士で分かち合い、しかし排他的ではない『立ち飲みレベル』の付き合いが必要だ」と指摘する――。

※本稿は、鈴木謙介『未来を生きるスキル』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/ycshooter)

お金がないと何もできない「商品化」の時代

日本の長年の課題となっている高齢化や人口減少問題は、地域によってかなり状況が違うことがデータで明らかになっています。都市部ではこれからどんどん高齢者人口が増加して超高齢社会になり、逆に地方では、高齢者すら減少し全体として過疎化していくことが予想されています。

僕たちが生きる地域社会は、なぜこのような課題を抱えてしまったのでしょうか。端的に言うと、それは戦後の日本社会が基本的にすべての生活の手段を「商品化」してきたことに関係していると見ることができます。商品化とは、要はお金を出せばなんでも買えるようになること。逆に言えば、お金がないとなにもできない社会になったということです。

よく地方の若者が都市部に出て行くのは「仕事がないから」と言われますが、仕事の問題だけではありません。生活のための手段の多くが商品化されており、商品経済に依存しなければ生きていくことができない社会になっている以上、仕事があり、お金が入ってきて、そのお金で便利に生活できる都市部に人が集まるのは当然の現象なのです。

商品では解決できない問題に備える必要がある

しかし、こうした都市部が「便利」なのは、ずっと商品経済に依存できるだけの所得があり、かつ、お金ですべての問題を解決できる場合のことです。でも、いま多くの人はどこかのタイミングでお互いを支え合うシステムに移らなければ、そもそも生きるのが難しい状況に追い込まれる可能性が高まっています。

そこで、人生が長くなることや、お金で解決できない問題が増えてくることを念頭に置くと、すべてを商品経済に頼らない「脱商品化」されたコミュニティや人間関係のつながりを確保しておく必要が出てきます。商品経済に依存して生きていると、収入がなくなった瞬間にその人は「お荷物」になる。結果、嫌な顔をされながら介護されたり、施設に放り込まれたりするかもしれない。

一生涯を資本主義の商品経済だけに依存する前提で人生設計をするのは、あまりにもリスクが高い選択肢だと言わざるを得ません。