製品を割安で売り、単品の利益を積み重ねる「売り切りモデル」を長らく続けてきたものづくり企業で、「サブスクリプション」のような継続的に収益が入ってくるビジネスモデルへと方針転換する動きが加速している。しかし、兵庫県立大学国際商経学部の川上昌直教授は「人気に乗じて事業をモデルチェンジしても、安易な発想では行き詰まる」と警鐘を鳴らす――。(前編、全2回)

※本稿は、川上昌直著『「つながり」の創りかた』(東洋経済新報社)の一部を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/LPETTET)

低収益構造を生んだ「売り切りモデル」

ものをつくり、大量に売って利益を得る旧来型のビジネスモデルが終焉を迎えようとしています。プロダクト(製品)をつくって売るだけでは、もはや誰も買わなくなりました。当然ながら、利益が生まれるはずもありません。

すると、企業は安売りを始めます。適正価格以下でユーザーに提案し、なんとか買ってもらおうとすると、利益は悪化します。ユーザーは安いから買っただけで、決してプロダクトには満足していません。日本企業が苦しんでいる理由は、まさにここにあります。

「ものづくり」や「もの売り」で栄えた企業は、過剰なコストパフォーマンスや安売りで不況や熾烈な競争を乗り切ろうとしました。その結果、ユーザーからは価格でしか支持を得られず、価値を認識してもらえなくなったのです。残ったのは割安価格のプロダクトと、低収益構造。無自覚のまま、これまでどおりのビジネスを続ければ、近い将来、行き詰まることになるでしょう。

これまでのものづくり企業やもの売り企業のビジネスのやり方を、「売り切りモデル」と呼びます。売り切りモデルとは、あるプロダクトを販売したときに利益を確定する収益化モデルのこと。原価に一定の利益幅を付けて価格を付すという価格設定は、まさに売り切りモデルの中心となる考え方です。商品を希望価格で買ってもらえれば、企業は確実に利益を得ることができます。

そのため、顧客との関係が「一期一会」であっても、取引から利益を回収できます。こうして、単品による利益を積み重ねて、企業全体としての利益をつくるのです。厳格なコスト計算の下、価格設定や販促活動などが展開されていきます。

超有名ブランドだからなせる業

売り切りモデルは、理想的な状況ではうまく作用します。

たとえば、十分にブランディングが成功した企業がそうです。原価に基づいて利益幅を加えて価格設定しても、一定程度まではユーザーはついてくるでしょう。いわゆる差別化優位の戦略です。代表的なところでは、グッチ(ケリンググループ)やエルメス、それにルイ・ヴィトン(LVMHグループ)、ポルシェやフェラーリなど、ラグジュアリー企業が該当します。

十分にスケールメリットがある企業も、うまくいくでしょう。そもそも原価を安く設定できるので、そこに一定の利益幅を加えても、十分に競争的な価格設定が可能になり、利益回収の可能性が高くなります。これは、コスト優位の戦略です。ユニクロ(ファーストリテイリング)、あるいはトヨタ自動車などは、まさにそうです。