東京・浅草の田原町にべらぼうにうまいパン店、ペリカンがある。商品はもっちりした食感が味わい深い食パンとロールパンのみ。予約可能だが、1日分に当たる食パン400~500本、ロールパン4000個が売り切れたら閉店だ。ここ数年の“パンブーム”の一翼を担っているといっていい。地道に誠実に、素朴で飽きのこないパンをつくり続けて76年。その味が再評価され、連日行列が絶えない。ブームの機運に乗りつつ、浮かれずにその味を守り抜く覚悟を持つ次世代が最近、屋号を継いだ。中沢孝夫兵庫県立大学大学院客員教授が、老舗パン店の今に迫る。

陸店長(写真中央ジャケット)と実母の馨社長(右端)。

「時代遅れのパン」が、ブームの中心に

▼地域とブランド

「2代目の祖父・多夫は夕食後、自分のパンをまるでデザートのようにおいしそうに食べていたんですよ(笑)。商売が苦しい時期もあったはずですが、そういう話はしない人で、そんな祖父が僕は大好きでした。だからさほど悩むことなく、自然に家業を継ぐ気持ちになりました。店主自身も毎日おいしく食べているパンをつくり続けたいと」