ミーリングチャックとは、ドリルなど高速回転中の切削工具を支える工具。その出現が、円錐形が世界標準だった切削工具の形状を、スムーズでシンプルな現在の円筒形に変える役割を果たした。
1963年にこれを初めて開発したのが、大阪に拠点を構える日研工作所だ。金属加工の工作機械に欠かせぬ付属装置を製造する。「削り」の精度を追求する製品づくりに特化することで高い評価を積み上げ、町工場からグローバル企業へと成長してきた。現在の事業は、そのミーリングチャックを含むツーリング(“削るほうを支える”装置)とCNC円テーブル(“削られるほうを支える”装置)が2本柱だ。
「ニッチだが、工作機械による機械加工全体を支えているという自負はある」(長濱明治社長)という同社の足跡と成長を可能にした理由を、明治大学の森下正教授が説く。
お客様がよい製品をつくるための道具
日研工作所が製造するツーリングとは、ドリルやエンドミルなどの切削工具を取り付ける保持工具。CNC円テーブルは、加工する素材を固定する割出回転台。金属を加工する工作機械では、ともに切削の精度を左右する重要な付属装置です。
「ツーリングや円テーブルの製造は、今でも市場としては小さく、非常にニッチな領域です」
と長濱明治社長。しかし、「それぞれが完成品。部品ではなく製品であるところがこの業態の特色」(長濱氏、以下同)だと言います。
同社の前身は、1952年創業の松本鉄工所で、自転車の部品などをつくっていたようです。長濱氏が聞き及ぶところでは、58年の日研工作所設立は、先代社長の松本政一氏(故人)が、ツーリングに出会ったことがきっかけとのことでした。
当時は産業の工業化が始まり、高度経済成長期に突入しようという時代です。おそらく松本氏は、工作機械の付属装置というニッチな領域に飛び込むことで、受注生産で部品をつくる町工場を、製品メーカーへと転身させたいと考えたのでしょう。その目のつけどころは、現在のベンチャー企業の成功と共通するものがあります。
社名の日研は「日々研究」の意味を込めたもの。製品開発の精神として、今日も掲げているのは「“土根性”に科学性をプラスした新しい“努根性”」。また先代の松本社長は、自らを「生涯鉄削り職人」と呼ぶ人でした。日研という会社の見どころのひとつは、創業以来、職人的なモノづくり哲学を頑なに守りつつ、高い切削精度を追求してきた「ブレない姿勢」にあるでしょう。