それを物語るのが、63年に同社が開発したミーリングチャックです。切削工具を保持するツーリングの機構で、工具の保持を堅固にして削りの精度を上げ、工具の脱着もしやすくしたもの。今ではツーリングの機構のスタンダードになっています。

それに加えて、ミーリングチャックの登場は、それまで円錐形だった切削工具の柄がストレートになるという、工具業界の変革も生みました。

「その技術を基礎として、改良・開発を積み重ねてきたのが弊社の製品です。高い精度を求める厳しいお客様に、私たちは鍛えられてきたのだと思っています」――長濱氏はそう繰り返します。工作機械の付属装置であるがゆえ、「弊社にとってのよい製品をつくるのが目的ではない。お客様がよい製品をつくるための道具を提供するのが使命」というのが日研のスタンスです。

自社工場で製造されるツーリング(写真上左)が、道具として並んでいる(同上右)。同社製の「ミニミニチャック」(同下左)、高精度ゆえ外部に売り出したゼロゼロホルダ(同下中)。削られる素材を固定する自社製CNC円テーブルの中でも最大の一品(同下右)。

身近に多くの顧客とよきライバルがいる

60年代以降、同社は業績を伸ばし、企業規模も徐々に大きくしていきます。これは「使い手のための品質」へのこだわりと探求が、製品に対する顧客の信頼を築き、同社の成長の礎となってきたのだと思われます。

もうひとつ付け加えると、同社の成長には、中小の製造業者が集積する東大阪市に隣接するという地域性も大きく関わっていると思います。同市内にはたくさんの顧客がいると同時に、日研と同じ工作機械の関連機器メーカー、大昭和精機があります。同社は67年創業で、製造部門の従業員数は約400名。おそらく両社は互いに相手を意識し、切磋琢磨してきたことでしょう。身近に多くの顧客がおり、よきライバルもいるというケースは珍しく、東大阪ならではといえるかもしれません。

企業の業容が大きくなると、さまざまな課題が出てきます。特に人員の配備や就労環境の整備、資材・製品の管理、そして人材育成など多岐にわたって、運営の仕組みづくりをしなければなりません。

自社工場のニーズが自社商品開発と直結

中小企業が成長していく過程で、マネジメントはひとつの大きな壁です。現社長の長濱氏は、91年に日研に入社しましたが、当時は「マネジメントシステムが整っておらず、社長や現場責任者の采配でものごとが動く」状態。大手証券会社から、縁あって同社に入社した長濱氏は、少なからず戸惑ったようです。

「入社後の15年間は、ずっと現場を観察して、管理システムをつくっていくことが私の仕事でした。しかし、先代は昔気質の職人ですから、新しいことをやろうとすると衝突ばかりでしたね」