80代なら学費は80%引きで仏教を大学で心行くまで学べる

驚くことに柴田さんは妻の弘子さん(82)と共に、佐々木教授のいる花園大学文学部仏教学科にこの春、入学した。花園大学では、「100年の学びの奨学金制度」なるプロジェクトを2018年よりスタートさせた。50歳を超えた入学者には、年代分の割引(柴田さんの場合、80代なので学費80%引き)が適用できるという制度だ。柴田さんは同大学が始まって以来の、最高齢の新入生となった。

今春、花園大学文学部仏教学科に入学した柴田さん。(撮影=鵜飼秀徳)

「私の場合、残された人生はせいぜいあと5、6年でしょう。そこで、自分に与えられた人生とは一体、何だったのか。いま、この段階で学校に行くことは、人生を振り返るのにとてもいい方法なのではないかと考えました。人生の最晩年に哲学や宗教を学ぶ。実に理想的ですよ」

柴田さんや弘子さんは、孫ほど年が離れた学生と一緒に、授業を受け、ストレッチなどの体育の必須科目も受講しているという。

柴田さんは、「若い人たちと学べて、楽しくて仕方がない。これまで仏教を体系的に学んだことがなかった。2年生から受けられる佐々木先生の授業を受講するのが楽しみ」と話す。

老後を仏教ととともに歩むのも人生も選択肢のひとつ

そんな柴田さんに対して、佐々木教授もエールを送る。

「つまり柴田さんの場合、人生で2度、出家されたということですね。最初は定年退職してお坊さんになられた。そして今度は、寺からも出家する、という、稀有なケースです(笑)。檀家のいない寺の住職だったとはいえ、寺の運営という世俗的なお仕事の面もあったでしょう。そうした部分も今回、ぜんぶお捨てになった。『もはや、しがみ付くものが何もなくなった』という状態でしょうね」

「柴田さんを見ていると、まさにお釈迦さまの時代の出家のあり方そのものだと感じます。本当に精神的な喜びだけを満たすために、学校に入学されたということであれば、これはお釈迦さまの出家となんら変わらないですから。こういう柴田さんのようなケースが今後、ますます増えていくといいですね」

私自身、自戒を込めていうが、寺に生まれたからといって僧侶としての資質が備わっているかといえば、それは別問題だ。若い頃に出家しても、我欲を捨て、執着から離れることはなかなか難しい。だから、時に世間から「生臭」などと批判も浴びる。僧侶の資質問題が、現代の仏教離れなどにも繋がっている側面は否めない。

そう考えれば、柴田さんのように人生を重ねたシニアに、「老後出家」という手段がもっと、ひらかれてもよいのではないか。在家出身僧侶と既存の僧侶が混じり合うことは、仏教界にとっても決して悪いことではないだろう。

僧侶とは、職業ではなく、生き方そのものであると思う。老後を仏教ととともに歩んでいく。そんな人生も選択肢のひとつに入れられてはいかがだろうか。

(撮影=鵜飼秀徳)
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