沖縄や奄美大島には「ユタ」と呼ばれる霊媒師(シャーマン)がいる。その人数は寺の僧侶よりはるかに多い。ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏は「沖縄や奄美では、『ユタ』のような土着信仰が今も根強い。その背景には祖先崇拝という文化が深く関係している」という――。

沖縄や奄美大島には今も存在する霊媒師「ユタ」とは?

奄美大島では集落を歩いても、仏教寺院を見つけることは困難である。神社やカトリックの教会は集落ごとに見つけることができるが、寺はない。

その理由は、奄美は歴史的に仏教支配の度合いが薄いからだ。17世紀初頭から明治維新時までのおよそ260年間、奄美は薩摩藩の統治下に置かれていた。薩摩藩内では、檀家制度がほとんど機能しておらず、また、明治初期の廃仏毀釈によって藩内すべての寺院が破却処分になっていた。奄美では江戸期に唯一あった寺院が、廃仏毀釈で廃寺になっている。

鹿児島県で廃仏毀釈が終息した1878年ごろ、浄土真宗本願寺派が寺院空白地帯で大々的に布教を始める。すると奄美では複数の真宗寺院が建立されていく。それでも奄美大島における寺院は現在、浄土真宗系寺院を中心に8カ寺のみ。島の信仰は、仏教、神道、土着宗教、カトリック、新宗教などが多様な宗教が混在している。

仏教勢力が弱い反面、奄美では土着的宗教職能者である「ユタ」が勢力を拡大してきた歴史がある。ユタとは沖縄や奄美で活動をするシャーマン(霊媒師)のことである。ユタは、いまだに奄美の集落に深く根付いている。

ユタは、祈祷や死者の口寄せ(死者の魂を憑依させ、死者の言葉を伝える)、占い、人生相談などを行う。

見えざる世界と現代とを結びつける媒介者

私は数年前から日本のシャーマニズムの取材を続けている。これまでアイヌのシャーマンである「トゥスクル」、青森の「イタコ」、東北地方の「カミサマ」、南西諸島の「ノロ」や「ユタ」などに会ってきた。

鵜飼秀徳『「霊魂」を探して』(KADOKAWA)

彼らは、見えざる世界と現世とを結びつける媒介者だ。日本全国には、この科学万能社会の現代にあって、呪術師が数多く存在する。それは地域社会が「死後世界」や「故人」とのつながりを求め続けてきたからに他ならない。詳細は拙著『「霊魂」を探して』(KADOKAWA、2018)をご覧いただければ幸いである。

奄美は沖縄のシャーマニズムの影響を強く受ける形で、ユタ文化が継承されてきた。しかし、その実態はほとんど明らかになっていない。今回の奄美訪問は「ユタ」に関する住民への聞き取りをすることが目的のひとつであった。

ユタとはどういう成巫過程(シャーマンになる過程)を取るか。ユタは世襲制ではない。ある時、「神懸り(カミダーリ)」という神の啓示を受ける。その際、身体異常=トランス状態を示し、ユタにならざるを得ない運命であることを、神から脅迫的に告げられるのだ。