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シャーマン「ユタ」は沖縄と奄美に2000人以上いる

ある30代の奄美大島の南端部、瀬戸町在住である男性に話を聞いた。

「ユタは人口8500人ほどの瀬戸内町だけで2人いますね。カミサマという呼び方もします。奄美全体ではもっといます。いずれも高齢の女性です。私の親世代は何かしら、ユタの世話になっていました。そういう意味ではお寺のお坊さんよりも身近な存在です」

『奄美大島における近代仏教の布教過程の特質 宗教者の移動性と布教スタイルを中心に』(財部めぐみ)では、江戸時代までの奄美は、ユタなどの民間信仰が中心で、仏教やキリスト教といった既存宗教勢力がほとんど存在しない地域であったという。明治初期に「信教の自由令」が出されると、本土からさまざまな宗教が入ってくるが、それでも島人はユタ社会を容認し続けてきた(ユタに対する差別、迫害の歴史はあるが)。

現在、奄美には数十~100人超のユタがいるとみられている。しかし、その正確な実数はわからない。島における伝統仏教の僧侶は10人以下だ。したがって奄美では、仏教よりも民間霊媒師の勢力のほうがはるかに大きいということになる。

しかし、先述の男性は、「少子化などとともに、いずれユタが、集落からいなくなる時期が来るのでは」と予測する。実際、島で神の啓示を受け、ユタになったものの、活動の拠点を東京などの本土都市部に移す事例も少なからず存在する。

「ユタ依存症」になる島人もいる

一方、沖縄では奄美をはるかにしのぐ2000人以上のユタがいると推測できる。奄美は現在、深刻な過疎化にあえいでいるが、対照的に沖縄は出生率が44年連続で全国一だ。沖縄はインバウンド需要と人口増加も相まって景気拡大の最中にある。土着シャーマンの世界も、景気や人口動態に大きく影響を受けるのだ。

沖縄では奄美以上にユタへの依存度が高い。「医者半分、ユタ半分」という言葉がある。これは、西洋医学で病気を治療するのは医者だが、ユタの見えざる力によっても身体、精神的にも治癒を期待する沖縄の人々の習慣をたとえたものだ。

例えば、沖縄中部の一部地域では墓を改葬して、遺骨を運び移す際、辻々に米粒を落とす風習がある。これは、シニマブイ(死者の魂)が迷子にならないようにするための儀式。こうした墓に関わる指示は沖縄では寺院僧侶ではなく、大抵はユタが行うという。ユタにはまると抜け出せず、「ユタ依存症」になる島人もいるという。