食欲の秋は新ソバの季節でもある。サラリーマンの町として知られる東京・神田は、立ち食いソバ屋の激戦地の1つに数えられている。JRの駅の構内に2軒、その周辺には7、8軒はあるだろうか。少しでもお小遣いを節約しようと、店内ではスーツ姿のビジネスマンが今日もソバをすすり込む。

いまから30年近く前、私が小学校6年生の頃のかけソバは1杯・90円だった。なぜ、そんなことを覚えているかというと、無類のソバ好きだから。それゆえ打ち合わせなどで神田に寄ると、そんなソバ屋の暖簾をついくぐってしまう。いまや、かけソバは300円前後。3倍を超える物価の上昇にふと時代の流れを感じ、ノスタルジックな気分にひたりながら、器のなかのソバをたぐり寄せる。

(伊藤博之=構成 ライヴ・アート=図版作成)