スマホ決済やAI応用など、今や新しいビジネスモデルのネタ元として注目されつつある中国。だが中国法研究者の高橋孝治氏は、「中国と日本では『法治』のあり方が根本的に違う。日本のやり方は中国ではうまくいかず、中国のやり方は日本ではうまくいかない」と分析する――。
日本市場における新しいビジネスのヒントを、中国に求める企業家が増えつつあるが――。北京市内を走る、食事配達サービスの電動自転車。※写真はイメージです(写真=iStock.com/Spondylolithesis)

中国は新ビジネスの「ネタ元」になりうるか

他国で成功しているビジネスモデルをいち早く自国市場で展開し、先行者利益を上げる「タイムマシン経営」。この言葉を生み出したソフトバンクの孫正義社長がそうだったように、日本の企業家にとって新しいビジネスのネタ元はたいていアメリカだった。

だがここにきて、中国にビジネスのヒントを探す動きが出てきているという話をしばしば耳にする。果たして、中国で成功したビジネスモデルは、日本でもうまくいくのか。中国法研究者の立場から、これについて考えてみたい。

日本企業の経営戦略は企業ごとに千差万別であり、一つにまとめて話すことは難しい。しかし、中国企業との対比で考えると、ある傾向を指摘することはできる。

日本と中国を対比すると、中国的なビジネスモデルとは、「取りあえず先のことは考えずに、思いついたらやってみる。失敗したらそのとき、別の方法を考えればいい」というスタイルといえる。これに対し、日本的なビジネスモデルとは「事前計画を入念に作りこみ、うまくいくと確信が持てたときにようやく動き出す」スタイルだといえよう。

日中のビジネスモデルを対比し、最大公約数的に考察すると、確実にこのような傾向は存在する。そして結論からいえば、日本のビジネスモデルは中国ではうまくいかず、中国のビジネスモデルは日本ではうまくいかないだろうと思われる。なぜなら、両国の「法治」のあり方が、互いに全く異なっているからだ。

法に触れるかどうか予測できない社会

日本をはじめとする多くの国家では、「法律」とは「どのような行為をすれば、どのような『効果』が生じるか」を明確にしている(ここでいう効果とは、「刑に処される」「債権が発生する」といった、いわゆる「法律効果」を指す)。従って、市民は法律を読めば、「どのような行為ならペナルティーを受け、どのような行為なら受けずに遂行できるか」を知ることができる、しかもその法律は、民主的手段で選ばれた市民の代表が定めたものだ。

しかし、中国のような社会主義国家はそのような前提に立たない。中国では民主化が達成されておらず、議会に相当する人民代表大会が立法する法律は、民意の反映を前提としていない。そのため、市民から「われわれはそのような法律を望んでいない。このような法律を作成した中国共産党政権は倒すべし」という声が上がった場合、中国政府はこれを力で弾圧するしかない。