「そのまま輸入」はリスクが大きい

要するに、ここで定義した日中の典型的なビジネスモデルは、それぞれの国における「法治」のあり方という社会的背景の上に形作られてきた側面があるということだ。しかし残念ながら、この社会的背景の違いに気づかずに失敗した企業は少なくない。

日本でのやり方をそのまま中国にもっていった日本企業の多くは、事前に事業計画を十分に練ったにもかかわらず、予測不可能な現場の法運用の前に敗れ去った。今、中国本土でのビジネスで経済力をつけた中国企業が日本で事業を展開し始め、あるいは「タイムマシン経営」をもくろむ日中の企業家が中国で成功したビジネスモデルを日本に持ち込もうとしているが、日本の法治環境においては「取りあえずいろいろとやってみよう」は最適解でないどころか、事前によく考えればしなくて済む失敗をしたり、場合によっては日本の法に抵触して市場から駆逐されるリスクすら抱えかねない。

郷に入っては郷に従えというが、日本で「中国流」のビジネスを成功させるには、日中の「法治」のあり方の違いをしっかりと考えたほうがいいと、中国法研究者としては思う。その逆もまた、然りである。

高橋 孝治(たかはし・こうじ)
立教大学アジア地域研究所特任研究員
日本で修士課程修了後、都内社労士事務所に勤務するも退職し渡中。中国政法大学 刑事司法学院 博士課程修了(法学博士)。台湾勤務を経て現職。研究領域:中国法・台湾法。行政書士有資格者、特定社労士有資格者、法律諮詢師(中国の国家資格「法律コンサル士」。初の外国人合格)。著書に『ビジネスマンのための中国労働法』(労働調査会、2015年)、『中国年鑑2018』〔共著・中国研究所(編)、明石書店、2018年〕など。「時事速報(中華版)」(時事通信社)にて「高橋孝治の中国法教室」連載中。
(写真=iStock.com)
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