中国・黒龍江省の高等裁判所は今年の1月末、新型コロナウイルスを故意に拡散した者に、最高で死刑に至る厳しい刑事罰を科す方針を発表した。中国法研究者の高橋孝治氏は、「中国では人民を喜ばせて人気を取るための『劇場的法システム』とでも呼ぶべきメカニズムが存在すると考えることができる」と指摘する——。
なぜ「超法規的」判断が珍しくないのか
中国の法システムにおいてはしばしば、西側の国々から見れば首をかしげたくなるような事象が見受けられます。端的にいえば、「法の規定に基づいて公平な判断を下す」というよりは、中央なり地方なりの司法当局が実現したい「結果」が先にあり、そのために法を自在に解釈/運用したり、場合によっては「超法規的」な判断が行われることも珍しくありません。
例えば最近、黒龍江省の高級人民法院(日本の高等裁判所に相当)では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止を妨げる行為に対し、最高で死刑に至る厳しい刑事罰を科すという「緊急通知」を発表しました(*1)。
それによると、故意にウイルスを拡散し、公共の安全に危害を与えた者には、刑法114条、第115条1項の「危険な方法で公共の安全に危害を与える罪」が適用され、最高刑は死刑。検疫や強制隔離を拒否して他人にウイルスを感染させた者は、最高懲役7年の「過失による危険な方法で公共の安全に危害を与える罪」(刑法115条2項)を科されます。
また、新型コロナ関連のデマを捏造したり、デマと知りながらそれを拡散した者は、刑法291条により15年以下の懲役に処される可能性があります。この規定は中国人はもちろん、現地に滞在する外国人にも適用されます。