運営側の都合で「アドリブ」も大アリ

時には怒った「観客」が、上演中の「演劇」を妨害することもあります。そんな「観客」は「劇場」の警備員にとがめられて「楽屋」へ連れていかれます。すると、「観客」だったはずのその人物に対しては、連れていかれた「楽屋」という「他の観客には見えない」場所で、法律によらない行為が許されるようになります(敵・味方の理論)。

こうした「劇場的法システム」というとらえ方は、中国の超法規的措置に関するこれまでの説明ともうまく結合できるように思われます。

さて、「中国政府の法認識」が劇場内の現象と同質だとすると、法律とは何に相当するのでしょうか。中国には先に述べたように、法律より優先される政策や非公開の法などが確かに存在していますが、大部分は法律の条文通りに運用がなされています。そして、法律は一般に活字形式で公開されています。

「観客」に公開されている法律とは、「劇場のパンフレットに書かれている演劇のあらすじ」に相当します。しかし、上演中に「舞台監督」(中国の国家首脳や中国共産党幹部に相当する)がより「観客」が満足するような「演出」(政策)をとっさに思いついた場合は、パンフレットに書かれているあらすじ(「法律」)を別の内容で上書きすることができるのです。中央の政策には「一般に公開される」という特徴がありますので、いわば「パンフレットに添付される訂正表」のようなものです。

また、「演者」(地方の党幹部や裁判官など)が、「観客」が喜ぶ「アドリブ」を思いついて実行することもあります。こちらも評判が良ければ次回以降の公演時にも使われますが、政策とは異なり必ずしも成文化はされず、いわゆる「非ルール的法」として効力を発揮していくことになります。

中国における「真の法」を見極めよ

中国では成文化された法律だけでなく、「政策」や「非公開の法」を含めた規範が、さまざまな国家活動の根拠となる「真の法」として機能しています。その真の法こそが、中国を「劇場」に、さまざまな法的現象や国家活動を「演劇」に見立てた場合の「台本」に当たるといえるでしょう。「真の台本」の一部は、一般には公開されないのです。

本稿では、中国という国家を「劇場」という形でモデル化し、その舞台裏をある程度見ることに成功したように思われます。中国共産党政権が今後も「観客」を喜ばせて人気を取り続けることができるのか、今後の動向にも注目が必要でしょう。

新型コロナ禍の後も中国と付き合い続けるほかないであろう隣国の住人としては、引き続きなるべく多くの事例を分析し、中国における「真の法(劇場における台本)」を推測していく作業が必要といえるかもしれません。

(*1)「最高死刑!保障打赢“战疫”,黑龙江高院严打涉疫情防控相关刑事犯罪!」(2020-01-31)
  (*2)『中国社会の法社会学――「無秩序」の奥にある法則の探究』(明石書店)第8章 「中国における劇場的法システ
    ムという試論」 より
 

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