1937年の「南京事件」をめぐって、中国の姿勢がブレている。昨年12月の追悼式典では、習近平国家主席が参加を見送り、「日中関係に配慮した」といわれている。一方、地元の南京市は、例年通りの強硬姿勢を崩さない。中国法研究者の高橋孝治氏は「中央の意図を読み違えた地方の迷走がある」と指摘する――。
2018年12月、南京事件追悼式典に参列した大勢の兵士や警官、一般市民。(写真=Imaginechina/時事通信フォト)

「南京事件追悼式典」に参加しなかった習近平

中国では、「地方保護主義」という言葉がよくみられる。中国は、形式的には中国共産党が統治する一元化した社会のはずである。しかし、中国は非常に広大で、中央政府と地方政府の利益が相反することがたびたびある。そのような中央政府と地方政府で利益が相反する場合に、地方政府の機関がその地方に有利な法解釈をしたり、特別規定を制定したりすることがあるのである。

このような中国の中央政府と地方政府の意向の違いが、南京事件に関する態度で示された。これについてみていこう。

2018年12月13日に中国の江蘇省南京市では「南京事件追悼式典」が開催された。これには前年には参加していた習近平国家主席が参加せず、さらに中国共産党政治局常務委員の7人も参加しなかった(注1)。さらに、式典の中では「隣国として、共に世界平和に貢献することが大切だ」との発言も飛び出し、日中関係が改善する中、日本への配慮がなされたと分析されている(注2)

確かに、中国政府側が日本との良好な関係を維持するために配慮を行っているという面はあるといえよう。しかし、その一方で南京市では2018年12月13日から「南京市国家公祭保障条例」という条例(以下「当該条例」という)が施行されている(注3)

当該条例は、条文の題だけをみれば、国家の行う儀礼などが無事に遂行できるようにするための南京市の条例にみえる。しかし、その実態は「南京事件の否定を行えないようにする」ための条例といっていい。