まず、条例の内容までみると、「国家公祭」とは南京事件追悼式典のことのみを指している。当該条例第4条は、以下のように規定している。

(第1項)本条例でいうところの国家公祭活動は、国家の制定した「全国人民代表大会常務委員会南京大虐殺受難者国家公祭日に関する決定」に基づき、毎年12月13日に南京市で行われる南京大虐殺受難者および日本帝国主義侵略戦争期間に日本侵略者に殺戮に遭った受難者の追悼活動を指す。
(第2項)本条例でいう国家公祭場所とは、国家公祭儀式を行う場所であり、日本軍南京大虐殺受難同胞記念館公祭広場を指す。
(第3項)本条例でいう国家公祭施設とは、日本軍の南京大虐殺同胞記念館、南京大虐殺同胞埋葬地を指す。

そのうえで当該条例は、公民や法人などに国家公祭活動(南京事件追悼式典)への支持を義務化し(第11条)、さらに国家公祭儀式の警報が鳴ったときには、緊急任務に就いている特殊車両(パトカーや救急車を指すと思われる)や特殊作業に従事している者を除き、1分間の黙とうを行うことも義務付けている(第12条)。

このように昨年暮れの南京事件追悼式典においては、地方当局が条例をもって、市民を南京事件追悼式典へ強制的に参加させたのである。

「大虐殺」の否定は許されない

さらに当該条例第9条には、南京大虐殺の史料収集と研究を奨励し、突出した貢献をした者は表彰するとの規定がある一方、同第3条には、

(第1項)南京大虐殺は人類史上、人を絶滅させる暴行であり、中華民族の深い苦難で、南京市永遠の苦痛の記憶である。
(第2項)全市民は国恥を忘れてはならず、歴史にこれを刻み、平和を愛さなければならない。
(第3項以下略)

という規定もある。「研究」を奨励する割には、最初から「南京大虐殺を否定すること」は許されていないのである。

これらの条文をみる限り、習近平自身が南京事件追悼式典に参加しなかったからといって、簡単に中国の「日本への配慮」ばかりを強調するのははばかられる。だがその一方で、少し面白い事実もある。まず、2018年12月10日時点では江蘇省人民代表大会の公式サイトでみられた条文全文が、遅くとも2019年2月1日の時点ではサイトから削除されていることだ。