当然ながら、そういう我々が重点国と考えている地域においては、社員を派遣してその国の言語を学ばせる「修業生」という制度としてもう何十年もやってきていますし、これからもずっと続けていきます。

彼らに期待しているのは言葉を習得するだけじゃなく、その国の人になること。要するに、その国の文化、歴史、食べ物、スポーツ、何から何まで語れるようになることです。

自分で語れない人は会話に参加できない

コンテンツを身に付けないと、やっぱりローカルネットワークってできないんです。それを何代も何十年と続けてきていることが我々の人的資産だと思っていますし、それを通じて層的なビジネスを作り上げることができます。

我々は66カ国で事業をやっているので、日本はワン・オブ・66カントリーズにすぎないのです。私の立場から言えば、日本と同じように中国も語れなきゃいけないし、アメリカもヨーロッパも語れなきゃいけない。歴史に対する造詣は持っていて当然です。

日本の初等教育の最大の問題は、明治以降の歴史教育に力を入れていないところだと思います。歴史観についてだって、そのときに自分がどう思うかということを自分で語れない人は会話に参加できないですよ。だから、もう大変なんです。ビジネスから食事から、特にアメリカだとアメリカンフットボールと野球の状況は必ず押さえておかないと。相手によってはバスケットボールまで押さえておかなきゃいけませんから、好奇心旺盛じゃないと会話はできません。私はちゃんと2018年はアメフトの応援に行きました。

アメリカにはパスポートも持っていないアメリカ人が何千万人といて、その人たちがトランプ政権を支えている部分があります。日本人はややもすればそういうことに対して、いかにアメリカが内向きかということばかり言うんですけど、日本人の発信力の弱さや歴史観のなさは、日本がいかに内向きかということを象徴的に表しています。

私らはビジネスで勝負しているわけだけど、やっぱり人間的魅力というのがないと「ビジネスが終わったら、はいさようなら」では、関係は深まりません。だから、地理、歴史、文化、食べ物、この辺はマストですね。

▼私はこうして英語を学んだ!
○ 英語で語れる“引き出し”をたくさん持つ
× 発音や文法に強いこだわりを持ちすぎる
安永竜夫(やすなが・たつお)
三井物産社長
1960年、愛媛県生まれ。83年東京大学工学部卒業後、三井物産に入社。プロジェクト業務部長、経営企画部長、執行役員機械・輸送システム本部長を経て、2015年、社長に就任。
(構成=いつか床子 撮影=村上庄吾)
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