また、老後にお金がかからないようにするには、なんといっても健康でいることが一番だ。食事はできるだけ自炊し、小遣いは酒ではなく、健康な体づくりに繋がるような使い方をしてほしいところ。間違っても「養育費がかからなくなった分を酒に」とならないよう注意したい。

さて、定年を迎えるときにAさんは分岐点に立つことになりそうだという。選択肢の1つは、70歳まで勤務可能な現在の職場で引き続き仕事に打ち込むこと。もう1つは、早期退職を含めた退職後に、老親の面倒を見るため実家に帰ること。

前者の場合、老後への備えのためには、たとえ収入が減っても働くメリットは大きい。「年金の繰り下げ受給」を選択することも可能になるからだ。繰り下げによる増額率は、「繰り下げ月×0.7%」なので70歳からの受給にすれば「42%」もの増額となる。「81歳10カ月にならないと、通常の65歳から受給するケースと比べ累計受給総額は上回らない」との見方もあるが、「長生きリスク」に備える意味では、繰り下げは有望な選択肢の1つ。42%の増額がこの世を去るまで続くのだから。

一方、定年と同時に実家へ戻る場合はどうか。現役時代に趣味を持たずに過ごしてきた人は、退職後に生きがいを見つけられず、また、社会との接点が乏しくなることで、急に老け込んだり孤立したりするケースが少なくない。それが実家に帰ることで、親からも地域からも頼られる存在となり、新たな生きがいが生まれる可能性はある。生活費全般も引き下げられるだろう。1000万円ほどの貯蓄に加え退職金があれば、65歳の年金受給時までお金に困ることも少なさそうだ。

ちなみに、早期退職を選んで「年金の繰り上げ受給」をした場合は、「減額率=0.5%×繰り上げ請求月から65歳になる月の前月までの月数」なので、60歳ちょうどから受給スタートとなれば30%の減額となる。76歳8カ月で通常受給に累計総額で上回られてしまううえ、障害年金を受給できないなどのデメリットもある。いずれにせよ、年金受給の「繰り上げ」か「繰り下げ」かは、1度決めたら変更できないという点だけは忘れてはならない。

「老齢基礎年金」を繰り上げ、繰り下げするといくらになるか?
会社員の年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金の二重構造。自分がどれだけもらえるかは「日本年金機構」のホームページの「年金のことを調べる」→「年金の受け取り」→「老齢年金」に計算方法が記載されている。老齢基礎年金については、下記のサイトで繰り上げたとき、繰り下げたときの計算が一括でできる。


●生活や実務に役立つ計算サイト「Keisan」(カシオ計算機)
鬼塚眞子
FP
介護相続コンシェルジュ協会代表理事。同協会は弁護士、税理士、社会保険労務士などそれぞれに活躍する実務経験豊富な専門家で構成。介護、事業継承、相続問題などの相談にワンストップ・ワンテーブルで対応する。