結論ありきの“まとめ”は捏造

しかし、すでに作られているシナリオ通りに進めないと、上司やプロデューサーから叱られてしまう。期限も迫っている。今さら新たなシナリオを作るのは、時間的にも予算的にも難しい。よし、じゃあ、仮説通りのストーリーにしてしまうか、という誘惑に駆られる恐れがあります。

最初から決めている結論が出るように事実関係を捻じ曲げてしまったら、それは捏造です。以前、大問題になった関西テレビの番組『あるある大事典』の捏造問題にも、一つには、こうした背景があったと思います。

これは、ジャーナリズムに限ったことではないでしょう。市場調査をして、その結果をまとめようとしたけれども、仮説と大幅に違っていた。しかし、見聞きした通りに報告書をまとめるほどの時間的余裕はない。さあ、困った。ここは、立てた仮説を少しアレンジして、報告書を作成しようか。こんな“悪魔の誘い”を受けたことのあるビジネスパーソンも、少なからずいるのではないでしょうか。

仮説があれば軌道修正は容易になる

では、下調べをして仮説を立てることは無駄なのでしょうか?

いいえ、仮説を立てたことは決して無駄にはなりません。むしろ非常に有効に働きます。土台があるからです。

何もない白紙の状態から調査をして、文書をまとめるのは、文字通りゼロから積み上げるわけですから、大変な手間と時間がかかります。しかし、仮説を立てて現場に臨めば、たとえ仮説とは状況が大きく異なっていたとしても、土台があるので、軌道修正をすれば、対応は比較的容易にできるのです。

つまり、白紙の状態で調査を開始するよりも、効率はずっとよいといえます。

それにそもそも、仮説を立てて現地に臨んで、その仮説とは違った、あるいは上回る事実や情報が仕入れられたら、それこそが現地調査に行った甲斐があるというもの。喜ぶべきことです。

現地に行けば、仮説とは違う現実があるもの。それを最初から念頭に置き、どこが仮説と異なるのかを調べようとすることが、効率的な調査に結びつくのです。事前準備をしっかり行ない、仮説を立てて現地に臨みましょう。

池上彰(いけがみ・あきら)
ジャーナリスト
1950年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHKに入局。報道記者、キャスターとして活躍。『週刊こどもニュース』のお父さん役で大人気に。2005年に退職。『おとなの教養』『はじめてのサイエンス』『見通す力』『世界を変えた10冊の本』など著書多数。『伝える力』は200万部を超えるベストセラーになった。
(写真=iStock.com)
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